流跡 (新潮文庫)
流跡 (新潮文庫) / 感想・レビュー
新地学@児童書病発動中
「流跡」と「家路」を収録。どちらの小説もリアリズムとはかけ離れた内容で、特に時間の流れが独特だった。「家路」は短い小説の中であっという間に時間が過ぎ去ってしまうので、読みながら眩暈にも似た感覚を味わった。「流跡」は完成度が高く、これがデビュー作と信じられない。流麗な文体で夢のような世界を鮮やかに描いている。自分がこれまで見た夢を作者が文章化してくれた感じだ。美しいものばかりではなく、醜いものも出てくるが人間の深層心理はそういうものだろう。全てが混じりあい、溶け合って水になる最後の場面で異様な感動を覚えた。
2016/12/25
sin
芒々と曖昧模糊とした念仏様の描写がいつのまにか、倦み疲れたような日常生活の描写へと掏り替る。掏り替わりまた非日常を追い求めて、やがて終わりのないエンディングを迎える。書くことで己れを刻みつけても、そこにいた自分はそこにはいない。記憶があるから現在があるのだと作者のおまけの掌編に綴られてはいるけれど、僕は記憶の重みに堪えられず幼い時分や青年時代の思い出すら封印して日々を過ごしていく…ただ今を今だけを生きて消滅の時の事実を忘れようとしている。
2020/06/27
らむり
「きことわ」でこの人の難解さは知ってたけれど、やっぱり難しい・・。
2014/07/08
ミホ
短編2編。朝吹さんデビュー作でもあるそう。語彙が豊富、お話というよりなんだろう…言葉言葉が敷き詰められて鬩ぎあっているという感じ。旧式の言葉尻から、かたやデジタルな物がでて、場面転換、そうしてまた言葉達が流れていく。場面転換も色々です、舟頭であり、父であり、女となり、死体がでたり、祭りの会場であり、子供について話し合ったり、気づけば金魚で街が覆われる。感性と言葉がぶつかってきた、そんな感想。やっぱり私には難しい(>_<)けど何故か気になる作家さん。
2016/05/26
ちえ
作者の本は芥川賞受賞作「きことわ」を以前読んでいる。本書にはドゥマゴ賞を受賞した処女作「流跡」と「家路」の二篇、そして堀江敏幸氏との対談が入っている。堀江氏の作品にも通じるが朝吹氏の作品も日本語がとても美しい。流れていく不思議な世界は最近読み始めた泉鏡花の文章にも繋がるよう。古い情景を思いつつ読んでいるといきなりUSBメモリーが出てきたり…。難解、それなのに読んでいて心地よく文字の流れに身を委ねたくなる。解説も良かった。
2023/12/13
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