エンジェル エンジェル エンジェル (新潮文庫)
エンジェル エンジェル エンジェル (新潮文庫) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
この人の作品を読むと、これこそが最高傑作ではないか、と思ってしまう。ほんとうにいつも。それくらい読後の感動が大きいのだ。この物語では、古き良き時代のカトリック系の女学校と、そこに通う「さわちゃん」をはじめとした女生徒達の感じが実にノスタルジックに描かれる(ちょっと太宰の『女生徒』を思わせる)。「悪魔に魂を売った」さわちゃんの、そして「私」(コウちゃん)との時間軸の交錯が実に見事だ。熱帯魚水槽のアイディアも秀逸。ほんとうにいい小説と過ごせた時間だった。
2012/06/05
さてさて
わずか156ページの物語の中に深い読み味を感じさせるこの作品。『さわちゃんは、私の心に住む人のようなしゃべりかたをする。私はなんだか違う時間に入り込んだような気がしていた』というコウコと祖母・さわこの心が確かに交わっていく様が描かれていくこの作品。二つの時代の物語を見事に編み上げていく、梨木香歩さんの構成力に圧倒されるこの作品。「エンジェル」を三つ重ねる書名の、どこか軽やかささえ感じさせる物語の中に、人がこの世に生まれ、生きて、そして死んでいく、そのことの意味を想起させもする深い、深い読み味の作品でした。
2022/11/10
SJW
冒頭はヨハネの黙示録で始まる。コウコは熱帯魚を飼いたいとねだるが、同居する寝たきりで話しもできないおばあちゃんの深夜のトイレ当番を引き受けることでその願いが叶えられた。その深夜のトイレの時だけ覚醒してコウコと話をするおばあちゃん。現在のコウコの話しとおばあちゃんのミッションスクールでの女学生時代の話が交互に進み、徐々に意味が分かってきて、解説にあった「からくり小説」という表現に納得した。ここでは「愛憎」がテーマとなり人を憎んだ罪に苦しむが、神に祈れば許されるよと伝えたくなった。
2018/07/27
*すずらん*
学校で聖歌を歌い、聖句を唱え、祈りを捧げながらも、悪魔に魂を売った日を思い出した。兄弟ができると聞いた日。私は、そんな子はいらないと言って泣き喚いた。流産死産で入退院を繰り返す母を見て、私は母が死んでしまうのではないかと怖かったのだ。新しい命を拒否したあの日。天使祝詞を唱える私の中にも、悪魔が居る事を知った。誰もが皆、天使と悪魔を持っている。時に天秤が、悪に大きく傾く時だってある。だけどそれを知っているから、私達は誰かの罪を赦す事ができるのではないか。私がそうである様に、悪魔だけの人間なんていないのだから
2014/03/13
ちなぽむ and ぽむの助 @ 休止中
色んな葛藤を内に秘め自分を傷つけてしまうコウコと、やってきた寝たきりのおばあちゃん。おばあちゃんはコウコと一緒のときだけさわちゃんに戻ってしまう。遠い茶摘みの鮮やかな新緑の木々、涼しい風。美しい同級のひとに抱く仄かな憧れ。無邪気な天使の心はふとした風向きで悪魔になってしまった。天使のままでいたかったのにもう永遠に戻れない。 誰もが持っている一片の悪意のあまりの重さ。悪魔のようなそれを、ぞっとするほど冷酷になれる自分を、赦し、愛するということ。凝り固まった嫌悪感、罪悪感を解すのはたったひとひらの言葉。
2019/03/17
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