沼地のある森を抜けて (新潮文庫)
沼地のある森を抜けて (新潮文庫) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
太古に最初に生れた原生命から、菌類を経て現在にまで続いていく壮大なスケールの物語。それでいて、「あはれ」な感覚もひしひしと伝わってくる。文体上は4種類の「語り」を複合させた実験的な試みがなされていて、これも効果的に機能している。まだ『家守奇譚』や『りかさん』などが未読なのだが、これまでに読んだ梨木作品の中では最高傑作か。
2012/04/26
ちなぽむ and ぽむの助 @ 休止中
霧につつまれた森は清純な空気、それを吸い込もうと深く息をすると、どうじにみずをのんでいる気がする。沼からうまれたわたしたち、生き残るために派生。あのしずかな森にかえりたい、どこよりも生きものの気配が密なあの森、それは祖先の記憶。わたしのからだに根づいている。自分の意思がないことがかなしいの?生き残る以上にだいじな意思?移り変わる世界を悲しむ前に適応せよ!本能がさけぶけど、うしなわれた森をかなしむ心をゆるしてほしいと。郷愁に胸つかれて、わたしたちは旅をつづける。
2020/04/20
nico🐬波待ち中
代々伝わる"ぬか床"を受け継ぎ毎日ひたすら"ぬか"を掻き回す久美の物語。まさか"ぬか床"の話から壮大な生物誕生の神秘へ発展するとは思わなかった。確かに"ぬか床"は生きている、とよく聞く。温度や湿度、掻き回す人によって全く味が異なるらしい。だから同じ"ぬか床"は二つとない。掻き回す人の手を通して一族の歴史も染み込み醸成されていくのだろう。世界はたった一つの細胞から始まり無数の生物の系統へと拡がり、やがて次の新しい命へと希望が解き放たれる。「生」の神秘と受け継がれる「命」について、静かに思いを寄せ本を閉じた。
2019/05/05
KAZOO
「先祖伝来のぬか床」から始まって様々な不可思議なことが起きてどこに連れて行ってくれるのかと思いきや、ジブリの映画のような感じもして壮大な物語となっていました。私的にはこのような物語は嫌いではなく引き込まれるように読んでしまいました。梨木さんの物語の中ではかなり高い評価です。短編連作のような感じもしますが、命を主題とした長編なのでしょうね。
2015/07/18
風眠
(再読)私はどこから生まれてきたのだろう。生物学的には母親から、ということは間違いないのだけれど、この物語の登場人物たちのように、ある日ぽっと「ぬかどこ」から生まれてきた存在だったりして・・・てことを、ぐーるぐーる考えてしまうような読後。細胞とか、有機生命体とか、菌とか、そういう小さなものから長い長い時間を経て「私」という命を形作ってきた進化と繋がり。遺伝子に組み込まれた「生きのびる」という夢。生まれてはまた姿形を変え、また生まれてくるという、意識や個を超えた生命の壮大さに目眩にも似た余韻を感じている。
2015/04/10
感想・レビューをもっと見る