百年の散歩 (新潮文庫 た 106-2)
百年の散歩 (新潮文庫 た 106-2) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
本書によれば、ベルリンはフランスから逃れてきたユグノー教徒たちによって作られた街であるとか。たしかにベルリンはそんなに古くからある街ではない。第2次大戦で壊滅的に破壊されたこともあるが、名所中の名所ブランデンブルク門にしてからが18世紀末。そんなベルリンの通りを逍遥しつつ、時にはローザ・ルクセンブルクと邂逅し、また時にはブリュンヒルデの面影に遭遇する。まさにベルリン・ラビリンスの世界である。冒頭の「カント通り」こそ語りは吃音のごとくであるが(それはまたいたって散文詩的でもある)やがて読者は幻のベルリンへ。
2021/01/25
佐島楓
外国を旅するとその国のことばを母国語として変換し、聞き取ってしまうことがある。複数言語を解するひとなら、なおさら混乱を起こすだろう。その彷徨う感じを文学化した作品と言ってしまえば早いか。ことばの海の中を行きつ戻りつしながら、「わたし」は異国のひとたちの名前のつけられた通りを歩く。そこで出会う異様なものごとは、本当に「わたし」が体験したことなのか。始終混乱が起こり続ける大人の旅物語。
2020/02/02
NAO
ベルリンの8つの通りと、リンク、広場。語り手は、それらの通りや広場を歩く。語り手の想像はその通りにつけられた人物とリンクする。カントは言葉、マルティン・ルターと宗教、リヒャルト・ワーグナーと音楽というように。だが、それだけにとどまらず、語り手の想像はさらなる先へと広がっていき、コルヴィッツ通りではコルヴィッツの幽霊にも遭遇する。場所はベルリンなので、戦争の影もまだ色濃く残っている。語り手は、そこからまた新たな想像に飛ぶ。どこまでも広がっていく想像の世界を歩く作者の自由と孤独。
2024/07/08
サンタマリア
ベルリンに住む日本人女性が通りを歩く。彼女の目に飛び込んできた風景や幻想、また豊かな想像がたくみな言葉遊びを交えて展開されていく。
2021/05/09
kazi
私の視点を通して語られる幻想的なベルリンの風景。特有の言葉遊び・言語に対する感覚が非常に印象的です。大量消費される商品に対する嫌悪感・警戒心や、労働者の最低賃金への関心、人種と断絶の問題などについて書かれた部分が特に印象に残った。今更ですが、ベルリンでは芸術家の名前が通りの名称になっているんですね。“カント通り”“プーシキン並木通り”。それって素敵。首都としての華やかな歴史と、戦争・分断に象徴される負の歴史を併せ持つベルリンには私も凄く関心があります。私もお散歩してみたい。以上、レビュー終わり。
2021/03/14
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