奇貨 (新潮文庫)
奇貨 (新潮文庫) / 感想・レビュー
かみぶくろ
コミュニケーションってのは本当に複雑で一筋縄ではいかないものだってことを改めて認識させてくれる。恋愛とか友情とか家族愛とか、そういう既存のカテゴライズは単なる言葉でしかなく、そこからこぼれ落ちる他者との関係性に光を当てた良作。心理の綾も深く、人物への好感度も高い。吉田修一さんが松浦さんを稀代の作家とベタ褒めしていたのを思い出した。
2017/09/24
yukaring
人は誰しも、自分と他人とに違和感を覚えつつもそれを抑え込み、外面を取り繕いながら生きている。趣味、思考、性癖も含めて。登場人物たちは少しねじれた欲望を隠しつつ暮らしているが、何がメジャーで何がマイナーなのかしみじみ考えさせられる物語。多様性が叫ばれるようになっても偏見がなくなるまでにはまだまだ長い時がかかりそう。百合チックな女学生のお話もあったり不思議な感覚の友愛会小説(?)だった。
2022/11/02
こばまり
「親指P」以来、久方ぶりの松浦氏を読了。覗き見気分になる生々しい会話劇。今や私はこのように真摯に他者に対して自己を表現しているかしら、否との自問自答が胸に去来しました。併録の「変態月」は埃臭い制服や夏の体育館のむぅとした空気を思い出しました。
2016/04/03
Mayumi Hoshino
「奇貨」とは珍しい品物や人材のこと。本作では更に、かけがえのないというニュアンスが強いかなあ。奇貨だと実感してから、それを失いそうになるまでが、ちょっと可笑しくて何だか切ない。良かった。併録の「変態月」の世界にも引き込まれた。10代特有の強烈に焦がれてしまうときの感情について、そのやり場のなさ加減が瑞々しい。舞台は1984年なんだけど、書かれたのはその翌年なんですね。教師や先輩からの(体罰としての)暴力描写が、その時代を如実に表しているようで、生々しかった。
2016/11/25
SHADE
ラジオで紹介されていて購入するも10年近く積読だった。中年男とレズビアンの親友がルームシェアをする話。互いのターゲットへの目線は違うので、そこには利害関係も無く完全にセパレートな生活が成立するはずだった。しかし、このような組み合わせでも、ちゃんと(ちゃんと?)「それって…凄く嫌だ。」というような事が起きてくる。最後は人間同士、お互い良い大人。感情の仕舞い方に共感し、面白かった。
2023/06/22
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