日本文学100年の名作 第2巻 1924-1933 幸福の持参者 (新潮文庫)
日本文学100年の名作 第2巻 1924-1933 幸福の持参者 (新潮文庫) / 感想・レビュー
HANA
日本文学アンソロジー。本巻は1924年から1933年まで。既読は「利根の渡」「Kの昇天」「瓶詰地獄」。後は名は知っているものの読む機会に恵まれなかった作家が多く、その意味では有難かった。中勘助は田舎の暮らしがとても美しく感じれたし、堀辰雄は独特の透明感が素敵。龍胆寺雄や尾崎翠はこういう作風なのだな。意外なのは震災自体を描いた作品が少なく「食堂」と「麦藁帽子」のみ。大正文学に多大な影響を与えたと思っていたのに。流石にどれもこれも厳選された作品ばかりで、文章を追っているだけでも読書の妙を楽しむことが出来る。
2015/06/03
メタボン
☆☆☆☆ 一番好きなのはもう何度も読んだ堀辰雄「麦藁帽子」。必ず自分の思春期の頃の心情を思い起こす。淡々とした文章だが深い味わいのある島崎藤村「食堂」。シベリア出征の中隊が皮肉な運命、黒島伝治「渦巻ける烏の群」。蟋蟀の情緒がそのうち煩く感じられる加能作次郎「幸福の持参者」。引きこもりになる訳もわかる水上瀧太郎「遺産」。女がピョッと吐き出すつばを飲み込む描写など、読んでいると良い意味で恥ずかしくなる龍胆寺雄「機関車に巣喰う」。身籠りやすい玉千代が何とも愛しい広津和郎「訓練されたる人情」。
2017/10/04
KAZOO
2巻目になって気付いたのですが、編年体で10年ごとに短篇を集めているのですね。ここには15の短篇が収められていますが、作者のほかの作品は読んでいてもここにあるものは未読ばかりでした。堀辰雄は私の読んでいるものとは感じが違いました。龍胆寺雄や尾崎翠のものなどは私好みのものでした。
2015/01/28
みつ
梶井基次郎、夢野久作、林芙美子、尾崎翠の作品のみ既読。関東大震災の翌年から10年間の作品を収める。表題作は名前すら知らなかった作家のもの。つましくも幸福な夫婦の物語と見せて、二人に楽しみをもたらした存在(蟋蟀)がやがて小さな亀裂を浮かび上がらせる。震災後の生活を描いた作品(藤村の『食堂』、水上瀧太郎の『遺産』もある中、堀辰雄の『麦藁帽子』は、意外な形で震災と結びつく。関東大震災と第二次世界大戦、ふたつの「9月1日」が重要な意味を持つ福永武彦の『風土』にも、本作の海を舞台にした青春の日々が反映している➡️
2024/01/19
さばずし2487398
新潮が選ぶ10年単位の名作短編集。これは1920年代〜1930年代まで。「Kの昇天」はいつ読んでもかっこいい。堀辰雄は初読みだが思春期の拗ねた感覚が共感できていつの時代もこういうのは変わらない。林芙美子は放浪している主人公が特殊といえばそうだがこの時代の全体的な貧しさと逞しさがあった。「利根の渡」がまるで池波正太郎のドラマの様で印象に残った。しかし中には機関車に住み着いたりする話もあり、この時代から自由な作風はあったと実感。戦前の短編作品は特に手が伸びにくいので、こういうシリーズがあるのはありがたい。
2024/04/06
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