日本文学100年の名作 第3巻 1934-1943 三月の第四日曜 (新潮文庫)
日本文学100年の名作 第3巻 1934-1943 三月の第四日曜 (新潮文庫) / 感想・レビュー
こーた
1935〜42年、戦争に向かっていく時代の名品十三篇がならぶ。萩原朔太郎「猫町」、石川淳「マルスの歌」、岡本かの子「鮨」など、時間と空間の捉えかたがじつにのびやかで、この時代の小説はいまよりずっと自由だったのでは、とおもえてくる。表題作は宮本百合子。矢田津世子「茶粥の記」もそうだが、時代の暮らし、というものは小説にこそよく描かれていて、むしろほんとうのことは小説でしか描けない、ということなのかもしれない。いまの小説は「いま」を正しく描けているだろうか。その描かれたいまを、ぼくは正しく読めているだろうか。
2020/11/14
KAZOO
1934年から1943年までの作品を13収めています。幸田露伴以外は読んだことがなく、萩原朔太郎の「猫町」が前から読みたいとおもっていたので最初にあったので楽しめました。戦争が始まったことをあまり感じさせないのは選者にそのような気持ちがあるのでしょうか?
2015/01/30
みつ
朔太郎『猫町』、石川淳『マルスの歌』、露伴『幻談』のみ既読。『猫町』は、詩人の「三半規管の喪失」により訪れた町の不思議な体験を記す。『幻談』は、釣りをめぐる飄々とした記述の中に海では隣り合わせにある死を描く。尾崎一雄の『玄関風呂』は、息苦しい時代にあって肩の力が抜ける楽しい話。井伏鱒二の途方もない勘違いで締め括られるのも愉快。中山義秀『厚物咲』は、自己中心的で吝嗇な男の菊に対する執着を彼に翻弄された語り手の眼で描く。海音寺潮五郎『唐薯武士』は、西南戦争の時代を背景にしつつ、志願する息子に対する母の感情➡️
2024/01/22
kasim
錚々たる書き手が並ぶ豪華アンソロジー。既読はたぶん「猫町」のみ。二人の幼馴染の老人を描く中山義秀「厚物咲」に圧倒的な迫力があった。読者には当初少しだらしないだけの好人物にも見える片野が怪物に等しい人物だと次第に明らかになる。そんな彼がこの世の物とも思えない美しい巨大な白菊を咲かせるという落差。悪目立ちしないのに綿密な語りの技巧も鮮やか。文章の平明でいて美しい点では、中島敦もやっぱりすごい。
2018/11/02
A.T
矢田津世子「茶粥の記」がよかった。「…牡蠣は何といっても鳥取の夏牡蠣ですかね…ごく深い海の底の岩にくっ着いている。海女が獲ってきたやつをその場で金槌を振るって殻をわずか叩き割り…塩水でよく洗って酢でガブリとやるんです…」戦時、食糧も不足する中に空想するだけの食通の良人の話。2021年の現在読んでもヨダレが流れる旨味を湛えていて美味な一編。残念ながら作者 矢田津世子は1944年37歳の若さで亡くなってしまった。もっと読みたい作家です。
2021/02/14
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