日本文学100年の名作 第4巻 1944-1953 木の都 (新潮文庫)
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日本文学100年の名作 第4巻 1944-1953 木の都 (新潮文庫) / 感想・レビュー
こーた
戦争を潜りぬけたひとでなければ、とても書けない。そんな表現の数々がならぶ。表題作は織田作之助。読まずぎらいできたのがもったいない。永井荷風「羊羹」、獅子文六「塩百姓」、松本清張「くるま宿」、室生犀星「生涯の垣根」、いずれも名人芸。太宰治「トカトントン」、やっぱり好きだ。小山清「落穂拾い」、太宰に弟子がいたなんて知りませんでした。もっと読みたい。永井龍男「朝霧」、読みたいといえばこの作家も。井伏鱒二「逍遥隊長」、ことばなんて所詮は無力なのかもしれない。べらぼうに巧くて怖ろしい。とうてい敵わないや。
2020/01/21
KAZOO
1944年から53年までに発表された日本文学短篇のアンソロジーです。15の短篇が収められていますが、比較的なじみがあるものが多く楽しめました。小山清、長谷川四郎、坂口安吾、松本清張、永井荷風、井伏鱒二などの作品が私にとっては印象に残るものでした。ただほかの作品も捨てがたいものが多くかなり読ませてくれる感じです。
2015/02/14
みつ
安吾『白痴』、太宰『トカトントン』のみ既読。織田作之助の表題作は、彼の大阪への愛を素直に語る作。豊島与志雄『沼のほとり』は、鉄道の切符を入手することも困難な終戦直後の世相から幻想的な結末へと続く。荷風『羊羹』は、古い世代が結構余裕を持って暮らしていることに対してのある種の幻滅を描く。獅子文六『塩百姓』は、ユーモア小説の書き手とは異なる一面を見せる。朝ドラ『まんぷく』で製塩に手を出した主人公たちも思い出す。島尾『島の果て』は南の島で特攻に至らなかった兵を、長谷川四郎の『鶴』は大陸北部の歩哨を描く。➡️
2024/02/10
kasim
昨日まで国のためと叫んでいた者たちが今日は権利権利と主張する。敗戦で体制は劇的に変わっても根底は何も変わらない遣り切れなさ。「遥拝隊長」「トカトントン」が際立つ(後者の解説はちょっと言葉足らずなのか「?」ともなったけど)。井伏鱒二の苦さとユーモアの絶妙の混淆。太宰は既読だが流れるような文章の上手さを再確認。究極の庭を作る主人公と職人の三十年に渡る淡交を描く室生犀星「生涯の垣根」も素晴らしかった。松本清張「くるま宿」は剣豪小説のようで娯楽性が高く目からうろこ。既読2編。
2018/11/20
A.T
1945年の作はなく、1944年の終戦間際と終戦後の1946、47、49…53までのとびとびの15の短編集。戦時の大阪口縄坂辺りの名曲喫茶を綴る織田作之助「木の都」は、寂しいような温もるような散歩をしたくなるエッセイのような小説。初読み坂口安吾「白痴」はいつまでも重く残る。戦争に協調し、空襲爆撃で地面に散らばる四肢バラバラの死体にも動じなくなっていた主人公の精神に戦争の恐怖の気付きを与えたのは、一人の白痴の女だった。東京大空襲を描いているが1946年すでに作品にまとめている洞察の深さ早さに驚く。(続く)
2021/02/13
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