偏愛記: ドストエフスキーをめぐる旅 (新潮文庫 か 69-1)
偏愛記: ドストエフスキーをめぐる旅 (新潮文庫 か 69-1) / 感想・レビュー
翔亀
軽いエッセイ風の自伝&旅行記の形をとりながら、予想外に重い。「世界がドストエフスキーだけでは寂しすぎる」と呟きながら仕事先のパリで「罪と罰」の翻訳に赤を入れる著者は、絵に描いたような文学少年時に読んだ「罪と罰」の恍惚と恐怖を思い返す。全共闘の真っただ中にも日和見で過ごした大学時代に読んだ「悪霊」。それが連合赤軍の醜悪さと重なり、ドストエフスキーと決別する。スターリン時代の知識人の二枚舌の研究で鍛えて30年ぶりに、戻ってくる。そしてカラマーゾフの翻訳。自らの半生とドストエフスキーが交錯して、これは小説か。
2014/08/14
テツ
ドストエフスキー作品の翻訳や回線でお馴染みの亀山郁夫さんによるドストエフスキーについての語り。読み進めるうちにタイトルの『偏愛記』の意味が痛いほど理解できる。翻訳作業に必要なのはそれぞれの言葉を明確に変換できる言語能力だというのは当然だけれど、亀山さんくらいに作品(と作者)に入り込んでいると、そうした熱量のない方が翻訳した文章よりも面白く読めるような気がします。人生を通してハマる存在を見つけられるって幸福なことなんだろうな。
2022/05/23
武井 康則
「カラマーゾフ」を訳し終えた著者が、ドストエフスキー体験の総決算として書いたのだろう。出会い、学生時代の格闘、別れそしてもう一度の挑戦とドストエフスキーを巡った時間と場所を思うままに語る。なぜそこまでドストエフスキーに惹かれるのか、冒頭で匂わせながらやがて韜晦してしまう。本書は本文中にあった、自分にまつわる小説なのではないか。そしてやはり書ききることができなかった。たぶん「父殺し」にまつわるのだろう。これは紀行文でも随筆でも回顧でもない。筆者の語れる真実であって、事実ではないのではないか。そんな気がした。
2021/12/29
Nobuko Hashimoto
ドストエフスキー作品の謎を解く過程と、著者の体験や家族との思い出が絡まり合って語られていく。20年以上前に受けた授業での先生の声や語り口が思い出されて、ミステリアスで、ちょっとナルシシスティックな雰囲気に浸った。高校のときロシア文学と出逢って、進学先にロシア文学の授業があると知り、先生の授業を楽しみにしていた。最前列に座って、先生の声とお話の内容にうっとりと聴き入ったなぁ。気づけば、そのときの先生の年齢を超えてしまった。あんな風に惹きつける授業、まだまだできてないなぁ…
2014/12/20
onaka
とっつきにくいドストエフスキーも亀山さんの翻訳でなんとか読破できた。その亀山さんの自伝的なエッセイ。時間的に行ったり来たりする構成だが、パズルの解答がじんわり見えてくる効果を与える。主軸はやはり「父殺し」のモチーフ。繰り返し言及されながら、ドストエフスキー作品における普遍性と、亀山さん自身の個人的経験の深さが、徐々にクロスオーバーして、まさに文学に生きる亀山さんの息づかいが聞こえてくるよう。100%までシンクロはしないが、とりあえずあっぱれ!
2014/04/28
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