ヒトラーの防具(下) (新潮文庫)
ヒトラーの防具(下) (新潮文庫) / 感想・レビュー
chiru
ヒトラーと剣道という組み合わせは想像がつかない。戦前、防具が渡独して、ヒトラーへと献上された史実に驚きました! この物語の縦軸が“戦争”なら、横軸は主人公である香田大尉の視点。愛する女性を戦争で失っても「日本の目となり耳となり」の使命を遂行する大尉の姿が心に焼きつく。この時代に生きた人々は、迷い憎み、最後に“個”を奪われる。それは『閉鎖病棟』のテーマにも通じている。自分の正義を手放さず、大尉が守りぬいたもの。この作品の価値はそこにあると思う。エンタメとして読ませる飾りがひとつもない傑作でした。★4
2020/01/07
のぶ
下巻を読み終えて、戦争ドラマ、歴史サスペンスとして、とても充実した時間を持つことができた。下巻に入り第二次世界大戦の渦中で、ナチスドイツは戦況が悪化し、苦しい状況に落ちいって行く。並行して日本も太平洋戦争の厳しい状況が描かれる。そんな環境の中、外交官の香田は憂いを持ちながら仕事をこなすが、この香田の生き方が本書の読みどころだった。人物造詣が良く出来ているので読みやすく、上下巻1100ページに及ぶドラマを読む手を止めさせることなく楽しませてもらった。
2018/03/25
ちょろこ
読んで良かった、一冊。読了後まず感じたのは、読んで良かった、その思いだけだった。遂に第二次世界大戦へ…極限状況のドイツを目の当たりにしながらの軍人としての職務、通訳。綴られた日記、兄の言葉、戦時下で必死に生きるドイツ国民の正直な言葉は容赦なく胸に刺さってきた。偏見と差別、他よりも優れていると思うこと、それが戦争の種になり芽になる、いつの時代にもどの場所にもこの思想は渦巻き、いつどこで何が歪むか…と思わずにはいられない。タイトルに隠されたもう一つの意味、香田の選んだ道に最後は涙が出た。
2018/03/08
James Hayashi
タイトルに込められた意味を下巻で知る。戦争モノを日本でなくドイツの地で、限りなく亡くなっていく市井の人々を史実に基づき描ききっている。構成、ストーリー展開、人物描写、愛、使命など怠りなく描かれ、読み応え十分。本年上半期ベスト3に入る手応え。読後の余韻がまた素晴らしい。 参照: 吉村昭「深海の使者」佐々木譲「ストックホルム〜」「ベルリン~」
2019/06/03
KEI
ドイツ人の父を持つ武官・香田は兄から言われた「人は見たくないものは見ないものだ」しかし「日本人の眼となり耳となってドイツの姿を伝える事」として、冷静に次第に劣勢となっていくナチス ドイツや空襲に死んでいく人々の姿を日記に記す。香田の日記の日付を見ながら、運命の日を待つ思いだった。信念を持って生きた香田に感動し歴史に振り回された時代に思いを馳せ読後放心していた。過去に読んだ「夜と霧」「アンネの日記」「死の泉」「深海からの使者」等を思い浮かべ、狂気は過去だけのものであって欲しいと切に思う。素晴らしい本だった。
2017/07/16
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