水神(下) (新潮文庫)
水神(下) (新潮文庫) / 感想・レビュー
yoshida
五庄屋が誓詞血判をした、大石、長野両堰と溝渠造成の嘆願が久留米藩に認められる。遂に工事が始まる。農閑期の2ヶ月で工事を終わらすため、生葉郡の各村から人足が集まる。反対していた村もあるが、同じ百姓同士、工事を進めるにつれて団結する。最初の取水での失敗と不慮の死。責任を取るため自裁を決める庄屋。しかし、彼等を救うのは郡奉行だった。奉行は村々を思い、庄屋達は村人を思う。そこに私心はない。完成した溝渠と、奉行の手紙。無私で働く人々の姿が静かな感動を呼ぶ。派手さや、極端な演出はないが、確かな感動を与えてくれる作品。
2017/05/18
KAZOO
帚木さんの医療ものではない作品で筑後川流域の村民が命を懸けて堰をつくった物語です。最初は二人の村民が築後川から打桶ということで人手で田に水を入れていたのですが、それを5つの村の庄屋達が藩に掛け合い筑後川に堰をつくって水をひいてくるという話です。村民の厳しい暮らし、水をめぐる村の対立、あるいは老武士の人々の暮らしを楽にさせようということで命を懸けた行いなど心を打たれる物語でした。このような物語は最近の若い人には合わないのかもしれませんね。一気に読まされました。いい本です。
2023/04/23
はたっぴ
いよいよ村人総出の堰渠造成が始まった。貧困の極みにも拘わらず、「村の名折れにならないように」「大切な人に恥をかかせないように」と、其処此処で庄屋や村人達の気概が感じられ胸が熱くなる。近代的な作業器具がない中で運搬も掘削もほぼ手作業となるため、読み進めるうちに『火天の城』での巨石運びの場面を思い出した。築城への執念と息遣いを感じる傑作として記憶に残っているが、『水神』でも膨大な労力を厭わぬ村人達の大石運びが、反目していた村々のわだかまりを払拭させる見せ場ともなっており感動的だった。老藩士の嘆願書にも落涙。
2016/11/10
naoっぴ
いよいよ始まった灌漑工事。五人の庄屋の身代を投げうった命がけの思いが天に通じたかのごとく、村々の百姓達の心がひとつになり大工事が進んでゆく。夢、希望、勇気、志…胸を熱くしながら読んだ。解説でも触れられていたが、侍や町人の物語だけが時代小説ではない、こういう人々の物語こそ日本人の時代小説なのだなぁと感じる。読後に改めて表紙を眺めてじ〜んと感動。心洗われる良作です。
2018/05/03
のぶ
下巻に入り、いよいよ筑後川に堰を建設する工事が始まった。地元の農民の期待を背負った大プロジェクトは予想以上の難工事。その苦労と建設の工夫が伝わってくる。設計の予想を外れた事態による事故により死者が出る事態も発生する。この作品には悪人が出てこない。堰を建設する庄屋たちの熱いロマンが読んでいて胸を打つ。やがてこの事業も完成し大きな感動が、読んでいる自分に迫ってきた。帚木さんの本は初めて読んだが、まっすぐな登場人物に好感を持ったので、続編の「天に星 地に花」も続けて読んでみたい。
2017/12/23
感想・レビューをもっと見る