蠅の帝国: 軍医たちの黙示録 (新潮文庫)
蠅の帝国: 軍医たちの黙示録 (新潮文庫) / 感想・レビュー
yoshida
支那事変から大東亜戦争の敗戦まで、15名の軍医の手記。敗戦の悲惨さが苦しい程に伝わる。原爆投下後の廣島、東京大空襲、沖縄戦、ソ連による満州・南樺太侵略、南洋。どれも強烈な印象を残す。やはり標題作の「蝿の街」が忘れられない。昭和20年9月。京大では「原子爆弾症調査班」を組織し廣島へ調査に赴く。生々しい解剖の様子。語られる原爆投下からの出来事。なぜ戦闘員ではない市民がこのような非道な仕打ちを受けねばならないのか。大きな哀しみと米国への怒りが浮かぶ。本作は非常な労作であると思う。多くの方に読まれて欲しい作品。
2017/08/09
ゆいまある
20数年の歳月をかけ、15人の軍医の手記を元に書いた帚木蓬生(ははきぎほうせい。何回聞いても読み方が覚えられない)のライフワーク。民間人でもなく、生粋の軍人でもない軍医の視点であの大戦を見る。原爆投下後の広島で、急性放射線障害の貴重な症例に興奮したのもつかの間、感染症で原住民を死なせた罪で戦犯として裁かれた軍医の存在も知る。物資もない中どうしろと言うのかと憤り、日本が負けたから戦犯なのだと気づく。戦争は嫌だと言うのは簡単だが、我々はタリバンを無血で制圧できるのか。正義とは何だろう。軍医だった祖父は→
2021/08/28
のぶ
太平洋戦争時に戦場で奮闘した、軍医たちの15の物語。自分は先に続編の「蛍の航跡」を読んでいたが、問題なく楽しむ事ができた。どの物語も軍医の視点から語られている。著者が現役の医師であることもあり、医学的な記述は具体的かつ明快で、自分が軍医になったような気持ちで読み進む事ができた。すべての話を通して、当時の戦場の衛生面の酷さや、医薬品や食料の不足した過酷な状況が克明に記されている。巻末に記載された膨大な資料からも大変な労作であることが感じられる。辛い内容であるが読んで損のない作品だった。
2019/06/16
kinkin
確かに戦争の悲惨さは伝わってくる。しかし、いろいろな参考文献や体験者の意見を基に書かれているため、また15人の軍医がそれぞれ一人称で書かれているためか、15人が同じ人に思えて仕方なかった。軍医といっても体験にもっともっと差があってもよかった。むしろ、吉村昭氏のように事実を積み重ねたノンフィクションとしたほうがよかったと思う。亡くなった父は、少年兵で戦争に行った。「戦争なんて誰もカッコいいもんではなかった。何億回字にしても 書ききれない、伝えきれない」と言っていたのを思い出した。
2014/08/12
Book & Travel
作家にして医者でもある帚木氏が、戦時中の軍医たちの手記を元にして書いた短編集。命を救える軍医は優遇された面はあるだろうが、医師だからこそ直面した凄惨な現場や責任の重さも印象的。『蠅の街』は広島へ原爆症の調査へ赴く医師の話。被爆直後の広島の悲惨な描写が辛く、「黒い雨」を思い出した。満州、樺太や南方へ送られた軍医たちの引き揚げの凄惨さや戦後の責任追及の話も、生々しく心に残る。空襲や原爆の被害の悲惨さはもちろん、病気、飢餓、命賭けの逃避、暴力など、戦争にはあらゆる地獄が存在することがあらためて認識させられた。
2020/08/21
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