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遮光 (新潮文庫)

遮光 (新潮文庫)

遮光 (新潮文庫)

作家
中村文則
出版社
新潮社
発売日
2010-12-24
ISBN
9784101289533
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遮光 (新潮文庫) / 感想・レビュー

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パトラッシュ

『異邦人』のムルソーは自分は壊れていると思っていないが、中村文則の主人公は心身に暴力を受けた過去から内心どこかで壊れていると自覚している。その壊れ具合によって人を直接殺すか、計画的に死に至らしめるか違ってくる。初期作品では本書の「指」のように、モノへの執着がひびを拡大し完全に心を壊してしまう有様を描く。純愛でも狂気でもない、自分は壊れていると知りながら制御できない心を抱えた人の生きづらさが破壊へとつながる。ここまで同じパターンを繰り返すのは、自身の抱える深い闇を文学という形で吐き出しているように思われる。

2021/02/22

zero1

これは愛じゃない。主人公がそれを理解できないのは愚かだから。瓶入りの【物】を大切に持つ大学生。彼女は米国に留学と仲間に説明。刹那的というより常軌を逸した彼に読者は共感したか。中村らしく無機質な短文で構成された陰鬱な内容。瓶の中身は【ライナスの毛布】?前作「銃」を瓶に置き換えただけ?何度も出てくる缶コーヒーは隠喩?主人公の生い立ちと虚言癖は稚拙で【作り物】としか思えない。だが、この作品世界が「土の中の子供」につながる。当時25歳にして二度目の芥川賞候補(後述)。中村流「薬指の標本」?「異邦人」のオマージュ?

2021/03/30

夢追人009

ああ、悲惨としか言いようがないです。「虚言癖」の主人公の語りで進行する物語は何とかせめて最悪の事態を回避できたらと祈る様な気持ちで読み続けるしかありません。笑いと恐怖は紙一重だと常日頃から思っていますがタクシー運転手に(れっきとした男が)「子供が生まれそうなのです」と告げる場面には常軌を逸した狂気の気配が濃厚でした。著者の意識が正気と狂気を行ったり来たりしてもはや自らの心と体を制御できない男の内面を迫真的に描く方向に傾いているので如何ともし難いですが叶うなら彼を全身全霊で救う人物の物語が読みたかったです。

2018/08/16

抹茶モナカ

死んだ恋人の小指をホルマリン漬けにして保管して持ち歩く男の話。男は虚言癖の持ち主でもある。暗い内面世界を描く中村節に乗り、読んでいるうちに僕自身の青春時代の鬱屈を思い出した。ずるずる内臓を引き出されるような。中村文則のキャリア初期の作品で、この頃は個人の内面の闇が主題だった様子。徐々に描く闇の対象が外に向かっているんですね。

2016/09/13

青蓮

読友さんの感想より。155頁と短いながらもずっしりとした重みと深さがある作品。恋人の死を受け入れられず、虚言を繰り返す青年。彼が嘘を重ねる程、現実から遠く離れ、自分自身すら不確かになり、乖離していく。本書を読んでいると「私が今している行為は本当に私自身の意志によるものなのか?」と疑ってしまう。そして「私とは何か?」を考えさせられる。主人公の「私」は嘘を言うことで、また「演じる」ことでどうにか目の前にある「世界」と折り合いを付けていたように思う。それが出来なくなってしまった時、彼を待っているのは破滅だろう。

2016/11/02

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