透明な迷宮 (新潮文庫)
透明な迷宮 (新潮文庫) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
表題作を含む6つの短篇を収録。評判がいいようなのだが、私はあまり感心しなかった。冒頭に置かれた「消えた蜜蜂」は、独自の小説空間を形作っていて期待が持てたのだが。表題作はタイトルこそ秀逸であるものの、中味は『O嬢の物語』から借りてきたような設定。ミステリー仕立てでありながら、種明かし(もっとも、カトラリーのところでわかるが)とともになんとも陳腐な結末だ。ただ、この短篇と「火色の琥珀」とを通して描かれる「愛している」ということの錯覚と虚妄はもう少し追及されてもよかったように思う。平野啓一郎は長編小説作家か。
2017/09/27
扉のこちら側
2017年115冊め。初読の作家の短編集。表題作の『透明な迷宮』は正直好みではなかった。一番好きなのが一作目の『消えた蜜蜂』で、手紙と郵便局員というモチーフがまず好きで、彼の驚異的能力により誰も知らぬうちにじわじわと積み重ねられていったのがあの事件だという、その静けさが染みた。物語のインパクトでは『火色の琥珀』が強い。
2017/02/05
ナマアタタカイカタタタキキ
語り口は明瞭ながら、謎を残し朧げなまま締め括られる話が多く、それでもはっきりと印象に残る奇譚ばかりだった。朴訥とした郵便局員の青年の隠された秘密に纏わる一話目『消えた蜜蜂』で惹かれ、火に魅せられ火に欲情する男が己の半生を語る『火色の琥珀』に、不幸な事故に遭って以来奇妙な現象に見舞われた舞台演出家の話『Re:依田氏からの依頼』と、その他の作品もそれぞれが魅力的で楽しめた。表題作にて、主人公らの交わりの際に流されるリゲティの『ルクス・エテルナ』は、作曲者が意図的に声部を混濁させることで迷宮のような立体感を→
2021/02/28
ワニニ
奇妙に、幻想的に感じるのだが、その実確かな、リアルなことであると思わせる。不思議な感覚。読み易いのに解りずらい。正に透明な迷宮。愛の対象(者・物・出来事?)、感情は、私が朧気ながら定義する想像を超えていくが、どうしてこうなってしまったんだろうという中での人間の孤独、愛を欲し、彷徨う姿は同じなのかもしれない。物語的には、他人と同じ字が書ける郵便配達員『消えた蜜蜂』火に恋し欲情する『火色の琥珀』劇作家の時間感覚がどんどんズレていってしまう『Re:依田氏からの依頼』が好み。 帯に煽られ手に取るには、読者を選ぶ。
2017/01/24
アマニョッキ
またすごい本を読んでしまった。久しぶりに陶酔した。この世界から抜け出したくないと思った。どの世界も抜け出せなくなったら恐ろしいけれど、耽美と狂気は紙一重。平野啓一郎、すごい。これから少しずつ読んでいこう。同い年、同郷、バカリズムと同様どこかで出会えなかったものかと心底思う。好き。
2017/08/05
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