ニシノユキヒコの恋と冒険 (新潮文庫)
ニシノユキヒコの恋と冒険 (新潮文庫) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
川上弘美さんが描く純リアリズムの恋愛小説。年齢も様々な10人の女性たちが語るニシノユキヒコの物語。恋の相手に恵まれるニシノだけれど、それらはけっして長続きしない。それはそうだろう。「2人は末永く幸せに暮らしました」では恋愛文学にはならない。忍ぶ恋、禁断の恋、破滅的な恋こそが恋愛小説の王道だ。だから、この物語にはいつも別れが待っている。女たちは本質的な孤独がニシノに内在することに気づいてしまうから。その上に彼は絶対に叶うことのない、姉への恋愛感情までを秘めているのだから。寂しい、そして寂しさが似合う小説だ。
2014/02/25
さてさて
西野幸彦という影の主人公が接してきた女性達、西野幸彦の女性遍歴をまとめたこの作品。『ユキヒコは、恋というものによって手負いにされたわたしを、飛び道具も使わずに、爪も牙も使わずに、いともかんたんに手に入れた』と恋に堕ちていく女性達。それは『身のうちからわきでる、ふるえ。ユキヒコにとらえられたよろこびによって溢れでたふるえ』と感じる女性達に恋する権利が満たされる喜びを見るものでもありました。川上さんらしい文章表現の魅力と構成力、それでいてぐいぐい読ませる推進力にすっかり酔わせていただいた素晴らしい作品でした。
2022/04/02
こーた
女性たちが各々腕をふるってひとりの男の彫刻を彫っていくような印象がある。ニシノユキヒコ。それは光源氏か、好色一代男か。からりと乾いているようで、どこか死の暗さをまとい、そのどろりとした質感に触れて、ぞくっとする。この緩急、モテるなあ。あらゆる角度からニシノユキヒコを描いているようで、光があたっているのはその周縁である。恋のカタチは十人十色だが、どの恋にも必ず相手が要る。恋はひとりではできないから、好い。この女性はいつかのあの子に似てるなあ、とかそんなことを思いながら、かつての恋に想いを馳せる。
2019/11/01
ミカママ
「女自身も知らない女の望みを、いつのまにか女の奥からすくいあげ、かなえてやる男。それがニシノくんだった。」ニシノユキヒコくんの、これが魅力。こんな恋人、女性だったら誰でも欲しいよね。ただし、ニシノくんは心の底から女性を愛することが出来ない。(ラストの恋人だけは違ったのかもしれない)主人公をめぐる10人の女たちが語る連作短編集、時系列どおりでなかったところが、私の好みにかなってました。これはあれだな、恋愛小説集ではなく、失恋小説集、読み終わるとちょっとぐったりさせられます。元気なときにどうぞお試しを。
2014/08/18
kaizen@名古屋de朝活読書会
新潮百冊】短編連作。パフェー、草の中で、おやすみ、ドキドキしちゃう、夏の終わりの王国、通天閣、しんしん、まりも、ぶどう、水銀体温計。主人公は西野幸彦と関わる女性。川上弘美らしい主人公達。小説新潮に1998年から2003年に掲載。1作のみWhite love2000年2月幻冬舎刊所収。完全な制作順ではない。
2014/07/14
感想・レビューをもっと見る