なめらかで熱くて甘苦しくて (新潮文庫)
なめらかで熱くて甘苦しくて (新潮文庫) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
5つの作品からなる短篇集。それぞれは主人公も違い、独立した作品なのだが、共通したラテン語のタイトルからも連作として読める。川上弘美は実に久しぶりなのだが、しばらく読まないうちに作風が変わったか。かつての「うそばなし」の語りからは別人のようだ。これらの作品群は、いずれも「死」との親和性が高く、回を追うごとに冥界へ遡行してゆくかのような趣きだ。最初の"aqua"ではまだ兆しであったものが、次の"terra"では反転し(あるいは混淆し)、最後の"mundus"にいたっては、恐山の賽の河原を行く寺山映画のようだ。
2019/10/26
❁かな❁
とても余韻が残る壮大な物語*ラテン語で水/土/火/空気/世界と意味するタイトルの短編集。川上弘美さんのやわらかく淡々としながら静かな熱を帯びている感じの文章が心地よい。特に好きなお話は「terra」麻美と沢田の空気感が好き♡亡くなった加賀美の想いはドライに語られるけど切ない。じーんとして涙ぐんでしまった。「ignis」の青木とのお話も良かった。結婚はしてないけど30年以上一緒に寄り添ってるなんて本当に離れられない2人なんだろうなぁ*「mundus」はすごく深い物語。全体を通して生と死、性と愛を感じる作品。
2018/01/12
ゴンゾウ@新潮部
とても不思議な作品である。川上弘美さん独自の世界観。現実と幻想を巧みに織り交ぜながら女性の性やひいては死生観を赤裸々に描いている。人間臭かったり神話的であったり。下品であったり崇高であったり。最終話はまさに川上さんの真骨頂。知らず知らずに幻想の世界を浮遊していた。
2016/09/19
ナマアタタカイカタタタキキ
生命の源であるH₂Oを思わせる短篇集だった。実際に一話目はラテン語で“水”と題されている。それは時に気化したり凝固したりもする。物理法則を、そして現実世界を超えて、幾度も生と死を行き来するような不思議な体験。その道中に介在する性愛の欠片。擬似的にそれらを行き来するうちに、自分自身の内側で今もなお継続されているはずの、生命活動の営みの感触を探りたくなる。同時に、これを失う時は一体どんな感覚なのだろう、とも。後半の話に進むにつれて死の気配が色濃くなると、目の前の事象が粒子化されていくような妙な感覚に囚われた。
2021/02/17
(C17H26O4)
膨らみつつある蕾にだって熱をかんじる芯があるってこと。蕾が花咲き、実を孕み、枯れて土に還っても、おんなにはなめらかで、熱くて、甘苦しくかんじる場所がからだの芯にあるってこと。なめらかで生々しいところ。いつだってからっぽで、みたせないところ。生あたたかさは体の芯から体ぜんたいに広がり、満ちてふたたびからっぽ。でも待っているの。洪水が連れてきたそれのことをまた。
2018/12/27
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