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櫂 (新潮文庫)

櫂 (新潮文庫)

櫂 (新潮文庫)

作家
宮尾登美子
出版社
新潮社
発売日
1996-10-30
ISBN
9784101293080
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櫂 (新潮文庫) / 感想・レビュー

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ヴェネツィア

数ある宮尾登美子の基点を成す作品だろう。大正から昭和初年にかけての時代と、土佐といった独特の文化を持つ風土が濃密なまでに作品の基調にある。主人公の喜和が芸者斡旋業を営む富田(屋号)を営む岩伍に嫁してからの33年間が語られるが、「長い長い道を歩き続けた果て」に喜和には何も残らなかった。長男は病死、次男は父親(彼女には夫)の同類、唯一の理解者であった綾子も手放さなければならなくなったのだから。喜和に残されたたった一つの矜持は、あのような家に嫁ぎ、その世界に身を置きながら、最後まで素人であったことだろうか。

2022/09/26

yoshida

大正から昭和初期の高知。15歳の喜和は渡世人の岩伍に嫁ぐ。博徒であった岩伍は芸妓紹介業、所謂女衒を始める。家業に励む岩伍であるが、喜和は玄人の世界に馴染みがなく呻吟する。長男の肺病、岩伍が囲った太夫に産ませた綾子を引取り育てる、働いた果ての病。体よく隠居までさせられた喜和だが、次男を通しての生活費も届かず。夫と話し合いを望むも、離縁させられる。救いは綾子の存在である。この作品は綾子を描く四部作の第一作。先に三作の「朱夏」を読んでしまった。綾子の激しさは岩伍から受け継いだものだろう。実に読ませる作品です。

2020/08/09

優希

哀しみの漂う重厚な物語でした。喜和の愛情と忍従と情念が秘められていました。嫁いだ夫が芸妓稼業に身を投じても、反感を抱きつつも何も言わず耐え忍ぶ喜和が辛かったです。夫のため、2人の息子のために尽くしても、岩伍は喜和の心を理解もしなければ寄り添うこともしないのが苦しい。2人の溝が深まる中で、岩伍が妾の子・綾子を連れてきた時の想いは想像できません。それでも深い愛情を注いだのは母親の慈愛に見えました。この時代は嫁いだら己を殺してまで夫に従うのでしょうか。情景描写が素晴らしく、引き込まれるように夢中になりました。

2016/03/03

遥かなる想い

高知を舞台にした女性の一生を丹念に書いている。家庭をかえりみない夫に耐えながら家を支えていく喜和という構図は、女流作家が好きなら面白いとは思うが。

2010/05/23

まあちゃん

期待通りの濃密な作品。著者が芸妓紹介業を営んでいた実家をモデルに書いた作品。喜和のモデルは恐らく著者の育ての母だろう。喜和は女の涙を糧に生活するこの紹介業を忌み嫌うが、夫の岩伍は人助けと言う。岩伍は人情家で貧しい人に食べ物を与えたり、孤児を家に置いて喜和に育てさせたり。あるとき外に女を作り、産んだ子をこれまた喜和に育てろと岩伍が言い、拒むと拳で顔を殴られた。しかし血の繋がらない綾子が彼女の心の支えとなる。慣れない玄人稼業、息子の死、自身の大病、家族との別れ。時々の苦難に胸がえぐられた。連作の最初の巻。

2014/08/03

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