きのね(上) (新潮文庫)
きのね(上) (新潮文庫) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
序盤を除いては展開も速く物語としての面白さに満ちている。梨園という特殊な世界を題材に、多分にその内幕小説的な要素を持っているがために朝日新聞連載時(1988年9月~89年11月)から物議をかもした。あくまでもフィクションとして発表されているが、主人公の松川鶴蔵(雪雄)が市川海老蔵、実父の竹元宗四郎が松本幸四郎であることは誰にも一目瞭然※。光之ももちろん実在の人物がモデル。しかも、雪雄は最初の結婚ではきわめて暴力的な夫として描かれているのであるから。訴訟沙汰にならないためには徹底した取材が必要だっただろう。
2022/09/08
yoshida
昭和8年、女学校を卒業した光乃は口入れ屋に働き口を探しに行く。父の事業が上手く行かず寄る辺なき光乃は女中先を探し、歌舞伎役者の竹俣宗四郎の家へ奉公に上がる。長男の雪雄付きとなった光乃。不器用で大病を患う雪雄にとって、懸命に奉公する光乃は貴重な存在となる。光乃は雪雄への思慕を秘めつつ奉公する。芸の肥やしとよく言われるが、雪雄も外に子がいる。その運命の哀しさ。苛立つと手が出る雪雄の様子には時代を感じる。戦前の日本の風情と歌舞伎界の様子が描かれ興味深い。登場人物達の波乱万丈な生き方も魅力的。一気読みの作品です。
2020/06/07
油すまし
歌舞伎界の名門の家付の女中から妻になった光乃、モデルは11代目市川團十郎の奥様。ちょうど海老蔵さんが13代目市川團十郎白猿を襲名された時だったので新聞の家系図を切り抜き確認しつつ読み、NHKでもアーカイブス「あの日あのときあの番組」で「「團十郎襲名」を再放送し、12代目團十郎の襲名の映像にこの小説にも出てくる2代目尾上松緑さんのインタビューもあり、より感慨深い読書となった。宮尾登美子さんに感服の一言に尽きるくらい上下巻ともによかった。下巻は涙止まらなかった。
2022/11/06
AICHAN
図書館本。読メ友さんに薦められた本。宮尾登美子の歌舞伎小説。歌舞伎に興味はないが、なぜ梨園というのかという点に興味を持って借りた。昭和8年、東京の実科女学校を出た光乃は18歳で当代一の誉れ高い歌舞伎役者の所帯へ女中として入る。やがてその家の長男雪雄付きとなり、使いで行った歌舞伎座の楽屋で、幕開けを知らせる拍子木の音“柝の音”を聴いて衝撃を受ける。光乃は“きのね”と読むのだと思って雪雄に話すと「それはきのおとだ」と大笑いされ、以後、光乃は“きのね”と呼ばれるようになる。梨園の意味がわかって満足。面白い!
2022/05/28
ニノユキ
さすが宮尾登美子。11代目市川団十郎と妻千代を雪雄と光乃として書いたお話。光乃の献身的な奉公が花開くのでは…。と思わせるところで下巻へと続く。ついついWikipediaで市川団十郎の生い立ち、その後と検索してしまった。下巻安心して読もう。
2015/06/17
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