その姿の消し方 (新潮文庫)
その姿の消し方 (新潮文庫) / 感想・レビュー
(C17H26O4)
「引き揚げられた木箱の夢」「吐く息を吸わない吸う息を吐かないきみ」「黄色は空の分け前」靄の向こうの景色は捜せども茫漠として。薄日に浮かぶ人影は朧げにしか見えない。言葉にしまわれた新たな気配を見つける静かな喜びと昂奮。古い絵はがきに綴られた文面を読み解くにつれ、詩に沈んだ時が質量を持ち香り立つ。亡き知らぬ人の痕跡を求める中で出逢う人々とのやりとりは次第に心通い。ふいに、深い海の底が、胸のうちの塵埃が一筋の光に照らされて微睡みがほどけたよう。きっと時と時が繋がった。焦らず、焦らずゆっくり堀江氏の文章を味わう。
2019/02/18
南雲吾朗
一枚の絵ハガキに書かれた詩に魅了された主人公がその作者を探索しつつ、その過程で知り合った周辺の人々の関わり、共に過ごした時間、互いを思いやる優しい人の気持ち等を描いている。人の寿命と共にそれまでの経緯や気持ち経過、客観的な事実等も失われてしまう。残されるのは無くなった人への主観的な事柄。時の経過とともに移り行く儚くも美しい人生。時間、経過を素晴らしく美しい表現で綴られる。とにかく、本当に表現が素晴らしく美しい。「その空には白ワインの風味があった」この一文を読んだときに、あまりの美しい表現に震えが来た。
2019/06/06
優希
野間文芸賞受賞作。フワフワした世界に浸っているような感覚になりました。時間の流れ、手に手をとりつつ消える人々、不思議なあたたかさ。それはきっと記憶と偶然が入り混じる空気が流れているからでしょう。
2021/07/02
えりか
偶然、手にいれた古い絵葉書に書かれた詩。ほの暗い印象を残す詩は、読めば読むほどに甘い毒を舐めたような痺れを引き起こす。詩はいくらでも解釈できるのだが、あるいは解釈のしようがないのだが、その言葉自体が持つ奇妙な美しさに魅せられるように新たな詩を、そして作者を探す主人公(堀江氏本人と重なる)。彼が出逢う人々との時間と言葉、作者をめぐるうちに巻き戻っていく時間と言葉、ゆるりと流れる時間と言葉を慈しむような味わいのある端正な文章が、この物語を大いに引き立てていて、読後は静かな余韻に浸れる。
2018/08/26
佐島楓
知的な観察者たる主人公と、謎の詩人の痕跡のふたつが重層的な世界を描く小説。
2018/08/03
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