銀のみち一条 下 (新潮文庫)
銀のみち一条 下 (新潮文庫) / 感想・レビュー
baba
芸者芳野のあでやかさ、たおやかな強さ。下女志真の健気さ。それなのに上流階級で知識も豊富なはずの咲耶子がはっきりしない事がこの物語を動かしているのかと思わせるほど問題山積。しかし生きているだけで良いと告げる雷太。長い苦難を思えば終わりは簡単であったがそれも作者が「おわりに」で言っている様に新しい始まり、出発点であるからなのであろう。
2016/06/05
佐々陽太朗(K.Tsubota)
貧しさ故に、発展途上にあるが故に理想の世界は遠い。物事は人々がそうあって欲しいと思うとおりにならない。全員が救われ満たされるなどということは夢物語に過ぎず、現実には誰かが泣く。人々は泣いた者の犠牲の上にかろうじて生きてゆけるのだ。「どうすれば最大多数が泣かずにすむか」それが、この物語に登場する人物、雷太、芳野、志真の規範だ。「最大多数の幸福」ではなく「最大多数が泣かずにすむか」という表現が哀しくも厳しい。人のために懸命に生き、あるいは己を捨てて他を生かそうとした高潔な心に胸を熱くした。
2011/09/15
との@恥をかいて気分すっきり。
とても読み応えある小説でした。生野銀山は昨年行ったところで、富国強兵のもと多くの韓国人も奴隷のように働かされた歴史ももつ、日本近代の明と暗を併せ持つ山でした。数奇な運命を背負って生きる男と、3人の女性を描いた本作は、その激しい生き様と動乱の世の中が絡み合うように進む物語に目が離せなくなります。
2015/03/06
あすか
下巻はたくさんの不幸から始まる。幸せを掴んだかに思える者も、次の瞬間には不幸が襲いかかる・・・。「直利」ができるかどうか、それが人生の決め手になるんだろう。
2020/08/24
フェリシティ
咲耶子の半生が壮絶で…。館林と結婚せざるを得なかった時点で幸せとは言えなかったけれど、まさかこれほどの苦労を味わうとは。咲耶子だけじゃなく、この作品の登場人物はみんな波乱万丈で、雷太も芳野も志真も、自分の運命を受け入れたり、運命に抗ったり。犠牲の精神。無償の愛。一生懸命生きるって、こういうことを言うのだろうなぁ。印象に残ったのは、咲耶子の母・芙起。愛娘をあんな男に嫁がせたことを、どれほど悔いたことだろう。芙起が病床の咲耶子を看病する場面は、玉岡さんの心にすっと入ってくる文章を通して、本当に泣けました。
2015/05/18
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