切羽へ (新潮文庫)
切羽へ (新潮文庫) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
第139回直木賞受賞作。井上荒野の小説は、これまでアンソロジーの中の1篇としてしか読んだことがなく、長編は初読。したがって、これが井上の作品史の中でどのような位置を占めるのかはわからないで言うのだが、直木賞作にしては万事に随分地味な印象だ。とりわけ主人公のセイの影が薄い。舞台は長崎の大村湾に浮かぶ島のようだが、どうやら架空の地。小説は長崎弁を駆使するが、井上は東京生まれのようなので、あるいは彼女の父母が長崎の出身か。ただ、地味ではあるものの、閉塞した環境の中にいるセイの心の揺れは読者に共有されうるだろう。
2015/04/14
遥かなる想い
第139回(2008年)直木賞受賞作。新任教師として赴任してきた石和の存在が、セイの心を揺さぶっていくさまが官能的に描かれている。セイの夫の微妙な立ち居地も上手に描いているが、やや書き込みが薄いように思えたのは私だけなのだろうか?
2010/12/04
さてさて
『トンネルを掘っていくいちばん先を』指す『切羽』という印象的な言葉。そんな『切羽』という言葉を書名に冠したこの作品では、とても穏やかな島の暮らしの中に突如現れた一人の男性を強く意識する一人の女性の姿が描かれていました。物語の背景に描かれる美しい島の自然と、ほのぼのとした小学校の日常が一年に渡って淡々と描かれるこの作品。読者の想像力に委ねるかのように、直接的な感情表現が抑えられた極めて落ち着きのあるこの作品。何か大きな出来事が起こるでもない平板な物語に、しっとりとした大人の小説を堪能できるそんな作品でした。
2022/04/16
kaizen@名古屋de朝活読書会
直木賞】主人公の養護教諭麻生セイ、夫の麻生陽介、ピアノを弾く月江先生、新しく来た音楽教師石和聡、時々来る「本土さん」。母が切羽近くで見つけたというマリア像。閉鎖的な島での出来事。東京が出て来て開放感を吹き込む。最後は木切れの十字架(クルス)。よくわからないところが文学的なのかもしれない。芥川賞ならもうすこし暗いのだろうか。
2014/07/19
ゴンゾウ@新潮部
ひなびた離島で平穏な生活を送るセイと陽介。そんな二人の前に現れる若き音楽教師石和。なぜか心惹かれるセイ。セイの気持ちをうすうす感じながらも平静を装う陽介。結婚を諦めだらだらと不倫関係を続ける月江と本土。それぞれが後戻りのきかない切羽の中を突き進むよう。突き進んだ先に消えてしまう危うい関係。本来であれば互いに思い合い、嫉妬しあいボロボロになる心の苦しさが全く描かれいない。描かれていないからこそ苦しさや切なさが伝わってくる。こんなに苦しいことはない。
2016/04/23
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