海の仙人 (新潮文庫)
海の仙人 (新潮文庫) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
2005年度の芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞作。絲山秋子といえば、お仕事小説のイメージだが、本書はそれとは逆に無職の河野が主人公の物語。ついでに言うなら、この小説は基本的には恋物語でありながら、性的なものが介在しない。少なくても表面的にはそうだ。もっとも、深層では意味を持っていそうなのだが。ファンタジー(神様のようなもの)の設定などは川上弘美を思わせるが、本質はシリアス。三者三様の心の葛藤と、彼らの置かれた境遇はせつなく心に響く。人間存在の持つ本質的な孤独がテーマなのだが、それを見つめる作家の眼は暖かい。
2013/04/07
ミカママ
しょっぱなから「ファンタジー」なる謎の神様出てきて、うわ苦手な分野?と思ったのが大間違い。初期の頃、貪るように立て続けに読んだ絲山(当時は一発変換できなかったのに!)さんの作風を思わせる秀作。彼女のキンキンに研ぎ澄まされた感性を、ここでまた追体験させていただけた。
2018/03/04
しんごろ
なんて作品だ!面白いだけではない。かなり引きこまれる。気づいたら涙が一粒流れてしまいました。コメディかと思ったらまんまと騙された。面白いから一変して切なく哀しくなりますが、なんとなくハッピーエンド…。ううむ、心に染みる凄い作品だ!神様のファンタジー!君はなんだかんだで主人公の河野、彼女のかりん、元同僚の片桐のそれぞれの孤独を、ちゃんと癒やしていたよ。決して役立たずの神様ではないよ。みんな孤独や寂しさを感じながらも、きっと幸せを感じて生きているよ。自分が寂しさを感じたら、またこの作品を何度も再読します。
2017/10/18
風眠
ハッピーエンドではない、けれど、深い。そんな不思議な安らぎがある物語。人はいつだって孤独を抱えていて、すべてが思い通りになるわけじゃない。すれ違う心、見つめ合う視線のその先、敦賀の海岸でそれぞれの遠い景色を眺めながら、自分の心の奥へ奥へと潜っていく。逃れられなくてジタバタして、それでも人生の歩を進めていこうとする4人の男女。「役に立たないが故の神」である「ファンタジー」とともに、「孤独という人間の輪郭」をくっきりさせようと、さすらう姿が、軽やかでもあり、妥協のない覚悟のようでもあり、哲学的でほろ苦い。
2014/04/01
❁かな❁
【月イチ再読】とっても大好き♡初めて読んだ絲山さんの作品ですごく感動して、それから色々読みましたが今でも絲山さんの作品の中で1番お気に入り!碧く美しい海、ベージュの砂浜、カーステレオから流れる音楽すべてが心地よい♫河野のもとにファンタジーが訪れて…。河野をとりまく2人の女性かりんと片桐、元同僚の澤田などそれぞれに切なくて孤独。「今でも、あなたと、あなたを好きな自分がここにいることがありがたいって思う」切ない想いに涙が溢れた。私にもファンタジー会いに来てくれるかな♪素敵な余韻に包まれ再読したくなる作品♡
2018/01/13
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