ばかもの (新潮文庫)
ばかもの (新潮文庫) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
絲山秋子の作品は6冊目になるが、多彩な世界を描く多才な作家という印象だ。主人公のヒデは、これという原因や理由も見いだせないままに(しいていえば、額子に捨てられたのが原因か)、泥沼のようなアルコール依存症に陥っていく。小説が東京を舞台に描かれていたならば、彼は立ち直れないままだっただろう。ところが、まだ濃密に地縁や血縁の生きる高崎であったことが彼を救っている。しかも、そこにさえ居づらくなった先には片品という、さらなるアジールが用意されていた。ただ、分らないのは、この小説が「想像上の人物」を必要としたことだ。
2014/02/08
めろんラブ
読者の共感・感動を得やすい故かどうか、巷には喪失からの再生物語が氾濫している。ストーリーは違えど大枠は似通っており、畢竟、書き手の個性や力量が残酷なまでに浮き彫りになる。その点において、私のエース・絲山さんに対する信頼は、本作でも揺らがなかった。登場人物が何をどう失うのか、どのように生き直そうとするのかを、鋭利な刃物で生身を切り裂くように抉り出す。その生き血を浴びるかのような読書体験はなかなか得難いものだった。”俗と喧騒”から”聖と静寂”へと変遷する二人の関係は、恋愛の枠を超えて、ただただ美しい。
2014/07/28
chimako
主人公ヒデは芯からばかものだった。年上の女 額子に溺れ、捨てられたときは下半身丸出しで木に縛られると言う体たらく。次には酒に溺れ、付き合っていた可愛い女性を殴る蹴る。飲んだ後の事は忘れてしまい、自分がどれだけ人を傷つけたかさえも全く知らない。これ以上のばかものがあろうか!特にアル中(あえてこのことばを使う)になってからのヒデは救いようがない。ばかの骨頂であった。やがて時は過ぎ、額子は腕を失い、ヒデは何とか酒を断つ。たった一人の異姓の友だちネユキは逮捕される。最後の「ばかもの」はあたたかい。お幸せに。
2017/05/10
Hideto-S@仮想書店 月舟書房
年上の女性と過ごす生活に淫していた男は、突然「結婚するから」と宣言した彼女に最悪な形でフラれた。就職し、別の女性と暮らすようになるも酒に溺れ、全てを失ってしまう。どん底から抜け出そうともがくうち、かつての彼女が不慮の事故で大怪我を負い、離婚して独りで暮らしていることを知る……。絲山秋子さんが描く物語は大きく【働く女性】もの(芥川賞受賞の『沖で待つ』など)と【転落し破綻した人々】ものに分類できると思うけど、これは【転落・破綻もの】の代表作。不器用で愚かで、それでも生きていく。でもやっぱり、独りでは辛いね。
2015/03/06
ベイマックス
何だかな…、いいんだけどさ。有名人でも芸能人でもないからさ、日々の日常を本当にただ淡々と生活している身にとって、好き勝手やって病気からも生還して女の元に戻れて、はぁ~ぁ(笑)。まっ、物語としては面白かった。額子、かっこいいしね。翔子は可哀相だな、いい子なだけに。
2020/11/06
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