末裔 (新潮文庫 い 83-5)
末裔 (新潮文庫 い 83-5) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
絲山秋子さんの小説をこれまでアト・ランダムに読んできた。彼女のこれまでの小説は基本的にはリアリズム小説であった。というよりは、むしろ主人公の置かれた現実の社会空間の中でのリアリティのあり方にこそ彼女の小説のよって立つところがあったはずだ。ところが、本編ではその様相を大きく異にする。通常の現実にシュールな現象が干渉し始めるのだ。この後に書かれた『不愉快な本の続編』は未読なのだが、この傾向は『忘れられたワルツ』にも引き継がれる。彼女は大きく変貌しようとしているのではないか。とすれば、近著『離陸』の成果は?
2015/05/24
(C17H26O4)
現実味のあるようなないような出来事が夢の中みたいに切れ目なく頭に流れ込んでくる感じ。自分ではコントロールできず訳の分からないまま運ばれていくような不思議なスピード感がある。妻に先立たれ子供たちも独立し、独り暮らしのオヤジ省三。帰ったら玄関の鍵穴が消え失せて家に入れなくなっていた。不思議な人たちとの出会いだけでなく、仮に鍵穴がなくなったことから全て妄想だったとしても、彼が生活を取り戻そうとしたことは現実だ。妄想だろうが何だろうが何かをきっかけに過去を辿り、これからを想像できたらもう大丈夫なんだろうと思う。
2020/04/13
Hideto-S@仮想書店 月舟書房
幻想小説のような趣で描かれる〈再生〉の物語。妻に先立たれ、〈ごみ屋敷〉と成り果てた家に一人で暮らす定年間際の公務員。二人の子供とも疎遠になって、家族は事実上の〈解散〉状態になっている。ある日、仕事から帰ると自宅のドアの鍵穴が消失していた。家に入れず、途方に暮れて街を彷徨ううち、奇妙な占い師に出会う。「青い鳥が待っている」という謎の予言。色とりどりの悪夢。喋る犬。男は自分のルーツを探す旅に出る。「マタ クルカラネ」と出迎えてくれるインコ。パンツのなる木。読み終わって、グリーフケアがテーマの物語かなと思った。
2015/03/18
りょうこ
ちょっと不思議な話。でもかなり引き込まれた。ゴミ屋敷は片付けないとね(笑)奥さんステキな人だったんだなぁ。結構お気に入りの1冊になりました!
2017/12/05
ナミのママ
【家族週間@月イチ】とても不思議な話でした。帰宅したら鍵穴がなくなっていた自宅のドアから始まる物語。SFかと思いきや、主人公は現実的・生活臭が漂う58歳の公務員男性。ドアはどうなるのか?ストーリーはどこへ進むのか?読み進めるうちにいくつかの不思議が現れてきます。・・絲山さんの描く、綺麗な情景描写が好きです。今回も登場するあちこちの様子が目に浮かぶようでした。そして祖先、自分、子供と続く一族と「末裔」という言葉。確かにこの年齢になると深みのある言葉です。恋愛モノでない絲山作品をもっと読んでみようと思います。
2016/08/26
感想・レビューをもっと見る