馬たちよ、それでも光は無垢で (新潮文庫)
ジャンル
馬たちよ、それでも光は無垢で (新潮文庫) / 感想・レビュー
hit4papa
東日本大震災から1ヶ月。東北の故郷の街を行く作家(古川日出男)が、小説のチカラをもって、溢るる思いを描写します。小説とはいえ本作品は物語ではなく、ノンフィクションの趣きです。なので、物語を期待するとハズしてしまうことになります。被災地域のリアルを書かねばならぬのは、著者のメガノベル(!)『聖家族』が啓示を与えたからでしょうか。広がりをみせながらも微に入り細を穿つスタイルは古川日出男節。タイトルの”馬”は豊かさの象徴のと読み取りましたが、とにかく『聖家族』を読んでからこちらを手にした方が良かったようです。
2019/09/17
南雲吾朗
古川日出男の声(文章)はすごくえぐられる。3.11の震災の話。 福島県出身だが福島を出た人間で被災を免れた人間。本来なら故郷の人たちと同じような思いをしているべきなのに…と心を痛めている。実際に被災した人よりも、強く心を痛めている。 福島に入る。予想と違った現実がある。一見平穏そうだが、その裏にある非日常を読み取る。それは福島で生を受けた古川氏だからこそ読み取れる現状だ。 僅か155ページの中で濃密な思いが綴られる。僅かと書いたが、逆に155ページ以上だと気持ちが押されて読むことが耐えられないと思う。
2018/03/24
不識庵
3・11と表記すると、もう一つ想起されるのが9・11だろう。米国のテロには首謀者がいた。復讐する対象があった。2011年4月、著者は変わり果てた福島で、<私たちは誰を憎めばいい>と自らに問う。<憎まずひたすら歩くしかない>と答える。自らに。それは態度としては<ひたすら愛すること>だと。<全き愚者、それでいい>と。読んであるイメージが浮かんだ。イーハトーブのあの人物である。遠くつづく線路の横でこちらを振り返る姿が。彼はLonelyではない。Aloneである。憐れみを乞わないから。そして、ひたすら愛するから。
2018/04/03
glaciers courtesy
いつも感想に書いているような気がするけど、古川日出男のメッセージは常に「生きろ」である。「ベルカ、吠えないのか?」も「アラビアの夜の種族」も大好きな本だが、そこに凝縮されているのは、どんな手段を使ってでも生きていくこと、生への渇望だった。しかし、この本では古川日出男は「生きろ」ということを躊躇しているように思える。この現実を前にして、簡単に「生きろ」と言ってしまって良いのか。一人の生命力溢れる作家にここまで言葉を失わせてしまった東日本大震災だが、それでも僕らは歩き始めないといけない。古川日出男よ、生きろ!
2018/05/01
harukawani
すべてを理解できたわけではないし、理解できた部分もわずがだけれど、しかし、思い出されるものは多々あるのです。何年か前にひとりでレンタカーを借り、いわきから6号線を北上し陸前高田までを走った記憶、草原と化した石巻の記憶、陸前高田のベルトコンベアの記憶。それらと、震災直後ニュースとツイッターにかぶりついた記憶、震災後もなんら変わらなかった生活の記憶、それらが渾然となって蘇ってきました。
2018/03/12
感想・レビューをもっと見る