明るい旅情 (新潮文庫 い 41-8)
明るい旅情 (新潮文庫 い 41-8) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
タイトルからは、読む人に旅心を喚起させる晴朗なものを想像するが、かならずしもそうではない。筆者にとっての旅は、思索する旅だ。ヤップ島ではミクロネシアやハワイ本来のエコロジカルな生活を考え、イギリスでは植民地支配とイギリスから出て行った人々のことを想い、またイスタンブールではアジアを、あるいはイスラムを、さらには遊牧民族の本質を考察してしまう。それは、それだけ長い期間その場所に滞在しているが故でもあるのだが。篇中に「現代イギリス旅行文学撰」があるが、彼が庶幾する旅の姿とは、そうした紀行による思索なのだろう。
2013/08/21
chantal(シャンタール)
90年代の初め、様々な媒体に書かれた紀行文。沖縄、ハワイ、イギリス、北欧、ギリシャにトルコ。私の心も共に旅する。欧州文学についての知識が私にはないのが残念。ギリシャとトルコの関係がとても興味深く、もっとトルコについて知りたくなった。クレタ島ってギリシャだったのね😅北欧での出来事、大人の文化の件では涙出た。若者文化に満ちた日本はやっぱりまだまだ未熟なのか?大人が尊敬されるよう振る舞ってこなかったツケなのかな?今でもつい「汽車」と言ってしまい笑われる私。でも「汽車」の窓から眺める景色はやはり最高だと思う。
2021/03/21
翔亀
1990年代前半に書かれた世界を巡る旅エッセイ集。池澤さんが小説家としてデビューしたのは決して若くはないが、ちょうどデビューして10年位の頃に当たる(40才から50才にかけて)。今からみると初期。旅エッセイと言いながら、この作家の基盤となるところがその人生の軌跡とともによく垣間見れる作品集となっている。出発点は、イギリスの探検記のようだ。ロンドンの古書店めぐりのエッセイで尋常ではない傾倒ぶりがわかる。次がギリシャでの3年の生活(1975年)。これを「幸福のトラウマ」と呼ぶ。日本に帰った時に日本に↓
2016/04/19
James Hayashi
紀行エッセイ。何気なく旅をしている様だが、博識な著者であり各地の模様が小難しく語られ、軽く読む感じではない。感性が豊かというより、現地でも本を買ったりし研究に余念がなく、情報開示も秀逸。ハワイや沖縄はもちろんだが、ヨーロッパ最北端をネット検索している時に出逢ったズボルベル(ノルウェー)の美しさに心を奪われた。
2017/04/12
おはち
後半こそ北欧のおっとりとした時間の流れについての「明るい旅情」が描かれているけれど、前半はそういう意味での明るさはなく、自然から離れてもう戻れないところまで来てしまっている都会に対する呆れや怒りを感じさせる。広義の意味でさえ自給自足できずに「点滴を受けて生きている不健康な人間」である自分が都会の真ん中でこの本を読んで「良かった」と言うのも矛盾を感じてしまい情けない。…なんて書いてしまうと説教くさい本かと思われてしまいそうですが、決してそんなことはなく、週末にはいつもより少し遠出したくなるエッセイ集でした。
2020/09/02
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