カデナ (新潮文庫 い 41-11)
カデナ (新潮文庫 い 41-11) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
タイトルの「カデナ」は、もちろん沖縄の嘉手納基地のこと。カタカナ書きになっているのは、フィクションを含むからか。小説の冒頭でB-52の巨大さが実感を持って描かれ、またそれに続いて、フリーダが運転するムスタングで1号線(現58号線)を北上するシーンは、沖縄が様々な意味において前線基地の町であったことを伝える。エンディングの持つ一抹の寂しさとともに、印象的で、また実に巧みな表現だ。小説の全体は、文学としての純度はやや低いが、その代わりに物語としての妙味には富んでいる。沖縄在住十余年間を池澤が総括した作品だ。
2015/04/17
piro
1968年本土復帰前の沖縄。ベトナム戦争における「北爆」の拠点だった嘉手納基地周辺での出来事をフリーダ=ジェイン、嘉手苅朝栄、タカの3人の視点で綴った物語。ベトナム戦に対するささやかな、でも確かな抵抗活動が冒険譚として語られます。沖縄の微妙な立ち位置と厭戦気運。当時の特殊な空気感が感じられる作品でした。組織の命令ではなく、個人の思いが結び付いて善意の行動に繋がっていくところに、うちなーんちゅのしなやかさと強さを感じます。今の世の中を生き抜いていく為にもこうした自立した強さが必要なのでしょう。
2024/01/04
翔亀
【沖縄38】カデナとは勿論、嘉手納基地のこと。極東最大の空軍基地。この作品の主要舞台だ。池澤夏樹は一時期沖縄にのめり込み、1994年から10年間沖縄に住んでいた。2009年の本作品は、その総決算と言っていいだろう(沖縄を舞台にした長編は他にない)。しかし総決算なのになぜ嘉手納基地なんだろう。10年も住み沖縄の歴史や文化や人や風俗を熟知しているはずだから、いくらでも題材はあったはずだ。例えば北海道を題材にした私の好きな「静かな大地」はアイヌや開拓など北海道色が濃厚だった。それに比べると沖縄色は前面に↓
2021/12/17
kawa
ベトナム戦争末期の1968年、北ベトナムへの爆撃拠点となった沖縄・嘉手納基地とコザ周辺が舞台。ひょんな縁から米軍の爆撃情報を北ベトナムへ通報するスパイ工作にかかわることとなった老若男女4人。シリアスな政治社会小説かと思いきや、70年前後かの地舞台の青春小説との後書きも。確かに。そう言われてふり返ると、当時の雰囲気はこうだったのだろうと納得できる興味深いサスペンス。先日、散歩したコザの町、あのあたりが舞台かと想像すると、さらにリアル感が高まる。
2024/04/01
松本直哉
爆撃機のパイロットが精神的苦痛でアル中と性的不能になるのだが、爆撃計画が中止になったら性的能力が復活するのかなと思って読んでいたら本当にそうだったので失笑してしまった。性的能力と男らしさが等号で結ばれる気持ち悪さ。しかしわかりやすいことも確かで、わかりやすさにつられてすらすら読まされてしまった。こんな重い主題がこんなに軽く語られていいのだろうかと訝しむ。まあでも沖縄駐留の米兵の脱走はどこまで虚構か知らないけれどもっとやれと思うし、そんな風にして米軍が内部崩壊すれば沖縄は救われるのではなかろうか。
2021/02/07
感想・レビューをもっと見る