新版 貧困旅行記 (新潮文庫)
新版 貧困旅行記 (新潮文庫) / 感想・レビュー
ゆいまある
「ねじ式」等で知られる芸術漫画家つげの20数年に渡る旅行記を纏めたもの。持ち前の対人恐怖(というよりASD)の為観光地を避け、人の少ない村を探し、乞食になろうとしたり世捨て人になろうとするが失敗を繰り返す。脱力系であり、鬱との親和性の高さは宮田珠己を思い出すが、珠己さんが影響を受けているのである。東京での暮らしに疲れ、一度も会ったことのない女性のヒモになろうと試みて九州へ失踪を企てる、冒頭の「蒸発旅日記」が情けない自分をあられも無く曝け出しており、一字一句染み渡るほど心地良い。これだけでも読む価値がある。
2019/10/13
ホークス
1995年刊。20年ぶりぐらいの再読。主に1960〜70年代の旅の話。寂れた土地や侘しい宿をさまよう著者が羨ましい。人それぞれだけど、私は空気が苦手なためか著者の旅に共感する。どん底の安心感とユートピア感、自意識を相対化してしまうユーモアが良い。著者は「家畜小屋のように惨めな家屋が雨に濡れているのを見て、ほおずりし、家の前のぬかるみに転げ回りたい衝動を覚えた」とまで言う。実際は貧しさと疎外感に苦しみ、メンタルの崖っぷちに居たと思う。読者として感謝しかない。夏目房之介の解説に、つげ義春への愛と敬意を感じた。
2023/09/20
ホンダ
巨匠アングラ漫画家「つげ義春」の旅行記。本作に通底する暗さや惨めさ・寂しさ・貧乏たらしさは彼の漫画作品にそのままリンクし、正につげワールドそのもの。明るくて清潔な、所謂通俗的な宿が苦手なようで、彼が泊まるのは決まって世間に見捨てられたような薄汚い温泉宿ばかり(ちなみに宿はほとんどが東日本である)。昭和の侘しい感じが好きな人にはオススメの作品です。しかし猫町紀行は泉鏡花の「竜潭譚」のような隠れ里・神隠しといった風情であり、掲載されている写真も今では見ることの出来ない昭和の風景で味わい深い。
2019/08/25
紫羊
読書記録を調べたら、1995年の夏に初めて読んだ記録があった。引き続き「つげ義春とぼく」を読んでいるし、前年には沢野ひとしや出久根達郎のエッセイを随分読んでいた。30歳そこそこの平凡なOLだった私に、一体何があったのだろう…
2014/05/30
Shoji
昭和40年代から50年代にかけて、つげ義春さんが日本各地を自由気ままに旅した記録のエッセイです。どっぷりと昭和時代です。切なくもあり、楽しくもあり、バカバカしくもあり、なんでもありの旅模様。場末でのストリップ嬢、宿の女将、文通しただけの看護婦とのやりとりなんて、何だか男のロマンさえ感じます。あの頃は良かったなあ、しみじみそう思わせる一冊でした。
2021/11/20
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