蟻地獄,枯野の宿 (新潮文庫 つ 16-5)
蟻地獄,枯野の宿 (新潮文庫 つ 16-5) / 感想・レビュー
つちのこ
1958年~66年までの初期作品は、貸本で少年たちに人気があった宇宙や時代劇モノが並ぶ。絵のタッチも白戸三平や手塚治虫に似通っており、かなり影響を受けていたようだ。しかし70年代になり一転してタッチは変わり、哀愁と寂寥感が漂うシュールな絵になっている。この頃から自分のスタイルを確立したのだろうか。旅館の女中との逢瀬を描いた73年に発表された『懐かしいひと』は、74年の『義男の青春』の続編にあたるが、面白いのは『懐かしいひと』のほうが先に出されていること。これも計算づくか。だとしたら、やはり只者ではない。
2023/01/15
S.Mori
つげ義春がSFを書いていたとは知らなかったです。「ねずみ」と「右舷の窓」。手塚治虫のように洗練されておらず、武骨でぎこちないですが、不気味で人間の業を描き出すところが好み。この本には主に貸本屋時代の作品が収録されており、「ねじ式」の頃とは絵の雰囲気が異なっています。歴史漫画は白土三平に似た雰囲気です。私が一番好きなのは「西瓜酒」。貧乏な武士二人が間抜けな思い付きで一儲けしようと盛り上がるお話です。飄々としたユーモアと哀感を感じました。
2020/08/06
白黒豆黄昏ぞんび
人間にもし勝者や敗者がいるとすれば、この短編漫画集には謂わば敗者しか出てこない。いや、それすらもわからなくなるほど敗者としての立場に甘んじている。だから例え貧しくとも不幸ではないのだ。今日のごはんを食べるために出来得ることをして、ただ淡々と生きるのだ。ぶつ切りのような終わりかたをする作品が目立ったようだが、人の生きる道にハッピーであれバッドであれ、エンドなどないと言われているように感じる。誰かが死んでも誰かは生きていくのだ。ささやかに営みつつも。
2015/09/26
内島菫
特に「蟻地獄」が、境界線を越えられそうで越えられずぐるっと一周して元の所へ戻るトートロジーを描くという著者の漫画の特色を、分かりやすい形であらわしているように感じた。境界線とは『進撃の巨人』で言えば一番外の壁である「ウォール・マリア」であり、著者の漫画に出てくる夢も旅も女性もみな越えられそうで越えられない境界線として描かれている。
2019/08/17
阿部義彦
初期の作品を多く含みます。こどもこどもした、素朴な描線から、白土三平もどきの画風、そして最終的な独自の絵の確立まで、色んな絵柄の変遷が味わえます、時代劇とSFなどテーマも盛り沢山、わりと救いの無いエンディングが多いのも特徴か、つげさんのが生き生きと締め切りを気にせずに、書下ろしに近い形でマイペースで仕事ができかつ、傑作をものに出来たのは「ガロ」の存在すなわち長井勝一さんという、パトロンみたいな人に恵まれたからこそなのだろう。
2015/07/08
感想・レビューをもっと見る