世界中が雨だったら (新潮文庫 い 92-1)
世界中が雨だったら (新潮文庫 い 92-1) / 感想・レビュー
Shinji
久しぶりの市川さん。 う〜ん.. 少し消化不良でした。それでも美しい文章にひたむきながら狂おしいほどの愛が見えるのはやはり市川さんという事か。3つの短篇でそれぞれ趣きの異なる世界観。読後のやるせない気持ちは全編共通してあるのだけど表題作の「世界中が雨だったら」での姉の気持ちは計り知れないほどでしたね。助けられるチャンスは幾らでもあったんだけどねぇ.. 「循環不安」では危機回避というものが助かった訳じゃなかった.. 安穏と狂気は表裏一体かもしれないですね。
2017/01/04
よしみん
恋愛小説ではない。ここにあるのは、ゆらりゆらりと光を喰う闇。視線は清らかなのに歪んでいく。表題作の「世界中が雨だったら」の言葉の哀しさが胸をつく。逃げればいいのに、と思っていた。すべて捨てても命さえあれば、と。だけど、逃げる場所がない人もいるのかもしれない。私が掛けられる言葉を探して、俯く。市川拓司の新しい一面に引きずりこまれた。
2013/05/25
ちさと
読了後に脱力感に包まれるお話。雨が降れば軒下に入ればいい。だけど世界中が雨だったら?テーマは「いじめと自己執着」主人公はまじめで優しい一途な男の子ですが、級友達の手によって殺される事を望みます。狂気の原因は第1に幼児期願望が満たされなかったこと、次にいじめによる所属感の欠如。壊れてしまった心を思うと救い難い気持ちになる。子供の気持ちに気づけないことはあるけれど、子供を不愉快に思う親は許せない。3編からなる中編小説ですが、表題作を長編で読みたかったです。
2018/11/20
なないろ
市川作品らしい美しい言葉で綴られた、残酷で哀しい物語。溺れていく出口の見えない世界。いつもの温かさはなく、美しい言葉の羅列が、ひたすら哀しく恐怖さえ感じさせます。でも、市川作品なのだと納得する1冊。決して好きにはなれないけれど、市川ファンとして手元には置いておきたい1冊。どうしようもない泥沼のなか、もし世界中が雨だったら、あなたはどうしますか?
2015/02/15
エドワード
殺人者がみな凶悪な人間とは限らない。心優しく、気が弱く、自分の意思を上手く表現できない人間のことが多いかも知れない。「琥珀色の中で」と「循環不安」は、ふとしたはずみで、大事な人を殺してしまった若者の心の動きを描いている。「世界中が雨だったら」は、幼い頃から劣等感に苛まれ、いじめられてきた弟と、それを見守る姉を描く。姉と弟という設定の小説は非常に多いが、ここでも姉の弟を思う心が胸を打つ。「循環不安」の最終章は大変なサスペンスだ。最後まで描かれていないため、あの後彼がどうなったのか、不安でたまらないよ。
2014/01/18
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