図書準備室 (新潮文庫 た 90-2)
図書準備室 (新潮文庫 た 90-2) / 感想・レビュー
かみぶくろ
メタファーがふんだんに盛り込まれた巧みな文章がまず目を引く、はっきりと実力を刻み付けるようなデビュー作と二作目だ。人生で一度も働いたことがなく、パソコンもスマホも持たず、原稿は鉛筆手書きのみっていう、ある意味生けるカリスマの筆者だが、自己の暗い部分やルサンチマンを上手く織り込みながら、極めて冷静に、明晰に小説を構築しているように思える。これだけ文学臭がする小説が書けるのも、浮世離れした自分の特性を武器として十分に活用できているってことなんだろうな。
2017/08/13
巨峰
書かれるべきして書かれた作品と思う。作者のデビュー作「冷たい水の羊」と、第2作である表題作を載せている。いずれも力の入った作品で作者の中から迸るものを感じながらも、表現方法に違いがあり、作者が常に前進を目指して小説を書いていたのがよくわかる。内容が内容だけに読む人を非常に選ぶが、僕にとっては、終いの予測できない充実した読書ができた気がする。加虐と被虐。何故いたぶられるのか。彼でないと駄目なのか。望んで奴隷化されるものと望まなくも奴隷化されるもの。やはり痛いのは後者か。久々に「読んではいけない☆」本棚入り!
2016/09/20
夜間飛行
人間生まれついた体格でやっていくしかない…ふと漏らす言葉に清潔さがある。挨拶ができず、働かない生活は「すみません」に覆い尽くされて息苦しい。しかし、私もそれと無縁ではなく、他者の罪に触れていく瞬間の高揚感はわかる気がする。他者の傷が人を生きる方へ向かわせるのは残酷だが、そうやって、人と人との繋がりにぎりぎり賭けていく…この小説の試みに私も乗ってみる。すると「すみません」「もっとやれ」という言葉は、自他に突きつけられた刃であって、同時に突破口でもある。言葉と人間への信頼感に、田中文学の底力を見たように思う。
2014/08/31
ナマアタタカイカタタタキキ
彼のデビュー作及びその次作(後者が表題作)にあたるらしい。頗る陰鬱、にもかかわらず微かに清らかさも孕んでいて、奇を衒うようなことはせずとも独自の味わい深さがある二作品。社会不適合者特有の屁理屈は研ぎ澄まされていて、極端ではあるもののところどころ共鳴しないでもない(不本意ではあるけれど)。まるで儀式のような厳かさを持った凄惨な暴力行為の描写はどこか陶酔的で、加虐者にも被虐者にもそれぞれ法悦に近いものすら感じる。サラッと読み飛ばすと勿体無いので、心にも時間にもゆとりがある時にじっくり時間を掛けて読みたい一冊。
2020/12/10
なる
デビュー作とその次作が収録されている。次作である表題作は自閉症スペクトラムを想起させるとてつもない技巧に富んでいる。これをデビュー間もない人間が地で書けるとは。鳥肌が立つ想い。デビュー作『冷たい水の羊』もまた、重いテーマを背景にとらえつつ、ある種それを置き去りにしながら只管に内面へと向かう三島由紀夫の魂を感じる。鋭くて鮮やかな言葉の祝祭を繰り広げながら、そこだけに目を奪われる人間を容赦なく切り捨てようとする。読む側が試されている。痛々しいほどの共感と、それを拒絶したい本音が個人的にある。同族嫌悪なのだわ。
2021/05/06
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