きらきらひかる (新潮文庫)
きらきらひかる (新潮文庫) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
掌編を12列ねて、全体として長編小説に仕立て、さらには笑子と睦月が交互の視点から語る構成。互いに愛し合いつつ(世間の常識からは逸脱しているが)、それでも人はその本質において孤独なのだという寂寥感を内包した、まさしくこの小説の語りに相応しい構成だろう。この小説の魅力は何といっても、ピュアで奔放な笑子の造形にあり、睦月と紺の配置の絶妙さが、物語に膨らみと煌めきを添えている。笑子は「このままでいたい」と願うが、そのことの危うさが緊張感を与え、翻って小説に「きらきらひかる」透明感を生み出しているのである。
2019/07/02
さてさて
『僕たちは、恋人を持つ自由のある夫婦なのだ。結婚するときに、きちんとそう決めた』という『普通』だけど、とっても不思議な笑子と睦月、そして睦月の恋人・紺の三人の妙に安定した良い関係性が描かれていくこの作品。そんな物語を”シンプルな恋愛小説です”とおっしゃる江國さん。絶妙な視点の切り替わりによって、それぞれの場面で、お互いが相手のことを深く思いやる様がよく分かるこの作品。希望を持って「きらきらひかる」、希望があるから 「きらきらひかる」、そして明日へ、希望ある未来へ、色んな思いに満たされた、そんな作品でした。
2022/03/20
エドワード
読書メーター開始後初の再読。妻・笑子は情緒不安定でアル中。夫・睦月は医師で幼馴染みの紺とホモダチ。繰り広げられる、無邪気な日常がキラキラしてますね。ドーナツの夕食。植木に紅茶。シーツにアイロン。壁にかかる紫のおじさんに歌いかける笑子。お腹がたぷんたぷん。ウオッカをどぼどぼ。羊羹のような闇。擬音語と比喩が冴える。全く色褪せない文章。のびやかな生活。「ウエハースの椅子」も「赤い長靴」もみなこの先なんですね。本屋さんでふと手にとった本。平成六年六月一日初版発行かぁ。これが江國香織さんと私との出会いだったんだ。
2013/04/12
こーた
30年前に書かれたということにまず驚く。読んでいてほとんど古さを感じない、どころか時代を先取りさえしている。鬱病、ポリアモリー、同性愛。彼らの抱える葛藤はあまりに現在進行形で、当時はどう読まれたのかといちいち気になってしまった。30年経ったいま、彼ら夫婦も(とその恋人や友人、そして両親も)すこしは生きやすくなっているだろうか。食事の描写がいい。食べることで人物が生きはじめる。そこには生活がある。ひりひりと冷たくて、でもぽかぽかとあったかい。少なく平易な言葉で世界を支える。やっぱり江國香織さんの小説は良い。
2021/04/25
kishikan
江國さん初読み。前から気になっていた作家さん。この度、縁あってこのきらきらひかるにたどり着きました。1985年に詩で文壇デビューその後童話、89年に小説ということなので、92年のこの作品は彼女の初期の頃のものですね。作者あとがきでは、「ごく基本的な恋愛小説を書こうと思いました」とあるけど、でもなんといっても、ホモの夫とアル中の妻、そして夫のホモ相手、という登場人物の変わり種の恋愛小説。ただし、この不思議な愛の形がとても温かみがあって、時にはちょっと切なくて、でも思いやりに満ちた愛なんですよ。心を打つ作品!
2013/10/30
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