上野池之端 鱗や繁盛記 (新潮文庫)
上野池之端 鱗や繁盛記 (新潮文庫) / 感想・レビュー
じいじ
初読み西條奈加の人情時代小説は、想像を超える面白さでした。読みやすく、わかりやすい文章、ちょっぴりミステリーの筋立てが読む意欲をさらに搔き立ててくれます。かつての名声が地に堕ちた料理茶屋「鱗や」を立て直す女中お末の奮闘記。お末を支える若旦那の経営姿勢が素晴らしい。美味い料理を幅広く金持ちだけにこだわらない客層戦術、板前・女中たちの士気高揚策が功を奏します。過去の名物料理「鰻茶碗」(旬の具材をあしらった鰻の茶碗蒸し)を食べた客の表情描写が秀逸で、思わず生唾を飲み込みんだ。つぎの作品が愉しみになりました。
2017/06/02
ゴンゾウ@新潮部
タイトルからライトな内容だと思いこんでいたが、予想に反し読み応えのある作品だった。かつての名店を若旦那と奉公人が復興させる物語と思いきや。優しい若旦那の裏に潜む闇の顔など人物描写も繊細であり、一話ごとに謎解きと伏線が仕掛けられ最期につながる。完成度の高い創りになっていました。そしてあんなに頼りなかったお末があんなに立派になるとは。こういう作品には弱いんです。続編があるといいな。島内氏の解説もとても良かったです。
2017/04/22
ふじさん
騙されて江戸に来た13歳のお末の奉公先は料理茶屋とは名ばかりの「鱗や」だった。そこは、意地悪・怠惰・無気力・諦め等負の感情が溢れる場所だった。そんな中で、お末は名店と呼ばれた昔の店を取り戻すべく奮闘する若旦那の八十八朗に共感し、店の再建に取り組むことになる。店が評判になり、繁盛し出した頃、「鱗や」の忌まわしい過去や若旦那の素性が明らかになる。市井小説だが、お末の成長記であり、鱗やの繁盛記であり、極上のグルメ時代小説であり、ミステリー性もあり読み応え十分の人情小説。最後は、登場人物の未来に希望を抱かせる。
2022/05/23
sin
中盤までは繁盛記で主人公お末の奮闘記でもあるがそのお末ちゃん、どうやら見た目はパッとしないものの勘働きは鋭い様で、若旦那に向ける目はなかなかのもので、若旦那が抱える闇の部分を早くから嗅ぎ出して、幽霊騒動では朧ながらにその深層に行き当たる。繁盛記というより鱗や盛衰記と言っていいのかもしれないくらい、単なる料理屋の奮闘記ではないこの物語ではあるが、きっとこの最後の場面を越えたところに繁盛記が続いていくのだろう…そんな余韻を残したラストシーンだった。
2016/11/24
ぶち
料理屋鱗やに奉公しているヒロインが名店と呼ばれた昔を取り戻すため、婿養子の若旦那と奮闘するお話です。その過程が読んでいて面白く、痛快でもあるのですが、美味しそうな料理と"ほんわか"した成功物語だけで終わりません。名声が高まるにつれ、若旦那の闇が見えてきます。この物語の各章はミステリ仕立ての話になっていると共に、全体が若旦那の闇にまつわる大きな謎解きにもなっています。最後はハッピーエンドではあるのですが、女将となったヒロインや鱗やの今後の行く末もたいへん気になります。続編を楽しみに待ちたいと思います。
2018/10/21
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