せき越えぬ (新潮文庫)
せき越えぬ (新潮文庫) / 感想・レビュー
ふじさん
離縁されて故郷に帰る女、江戸から夜逃げをした夫婦等、訳ありの旅人が通る箱根関所を舞台に、そこで働く役人、関所を超える人々の人生ドラマを描いた作品。実直な関所で働く番士・武藤一之介を主人公に話は展開し、様々な関所に関わる物語が語られる。そんな中で、親友の騎山市之助から、関所破りの相談を受け、協力することになる。関所破りに至る経緯が、読み応えあり。友情、思いを寄せる女への切ない思い等が交錯し、しみじみとした人情噺となっている。読んでいて、朝井まかての「ぬかまいる」の箱根関所を越える話を思い出した。
2022/09/01
のぶ
江戸時代の箱根関所を舞台にした、六篇の連作集。話は繋がっていて、長編として読んでも違和感はない。箱根の関を預かるのは小田原藩大久保家。主人公は“武一”こと武藤(たけとう)一之介。この設定で様々なドラマが展開されるが、何より楽しいのは、武一のキャラクター。考えるより先にからだが動く。そして能天気という性格。とても人情家で、それが各エピソードに生かされていた。親友である“騎市”こと騎山市之助との友情話も読み逃せない。越えるのが厳しいとされる関所での物語は、切れ味も良く、心の襞に沁み込んで来るようだった。
2021/10/20
えみ
竹馬の友だから、どんな無理難題にだって魂から応えたい。そんな思いを存分に感じ取った爽やかな時代小説。親友という言葉は無敵なのか。何よりも強く、またどんなものより清いと証明してみせた武一と騎市の絆に天晴と褒め称えたい。江戸時代、東海道箱根の関所で交差する人の運命を生真面目で誠実な番士が見守る。関所を通るのには理由がある!「ご吟味よしなに」と足留めされてしまうちょっとした緊張感や、職権濫用の悪行に機転を利かせて一掃したスカッと感、淡い恋に切ない別れ…人情が厚いこの一冊は西條奈加さんらしい優しさに溢れていた。
2023/03/11
shincha
武一と騎一。身分の違う2人だが、竹馬の友。序盤は大きな事件もなく、2人の友情と恋愛事情が絡む、青春時代小説か?と思いながら読み進める。残りページが少なくなってから怒涛の展開。友情を信じ、自らへ、自分の一族郎党へ降りかかるかもしれない災いをも凌駕し、自分の信じた道を進んだ2人。やっぱり、西條さんの作品は大好きです。
2023/10/02
エドワード
箱根の関は小田原藩の管轄だ。武藤一之介と騎山市之助は幼い頃より道場へ通った竹馬の友。一之介は箱根の関に勤めることとなり、「入鉄砲に出女」と言われる手形改めを行う。旅人を関所側から見る視点が新鮮だ。後でシーボルト事件の頃とわかる。幕藩体制が崩れ始める時代。武士には守旧派と改革派がいる。貧窮する藩の財政を再建すべく知恵を絞る者、儒学、国学、蘭学を修める者。既得権益に胡坐をかく前者は後者を厭う。人見女・理世の夫、改革の志を抱く巴田木米を助け、関所を破り西国へ赴こうとする市之助。どうする一之介?幕末まで半世紀だ。
2021/12/09
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