生きてるだけで、愛。 (新潮文庫)
生きてるだけで、愛。 (新潮文庫) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
表題作は2006年上半期の芥川賞候補作(本谷はその10年後に「異類婚姻譚」で同賞を受賞)。主人公の寧子の一人称語り+会話体で構成される。寧子を鬱(本書ではメンヘラとも)に設定したことに難を示す選考委員もあったようだが、今読めばそのことはけっして本作の瑕瑾とはならないだろう。むしろ、そこから発せられる物語が持つパワーと、不思議な推進力とに圧倒される。同棲相手の元恋人が出てきたり、ヤンキー夫婦の経営するトラットリアで働くことになったりと、中盤からは怒涛の展開を見せるが、劇的で面白くはあるものの通俗的でもある。
2018/02/01
さてさて
『地面を踏んでいるはずなのに足下には何もなくて…自分は何にもつながってないんじゃないかと甘っちょろい妄想で押しつぶされそうになるのだ』。『鬱』と共に生きる主人公・寧子の視点で描かれたこの作品。そこには”恋愛物語”の一つの姿が見え隠れする中にさまざまに思いを深めていく寧子の姿が描かれていました。”キョーレツ!”な表現の頻出にインパクト最大級なこの作品。有名な「富嶽百景」のイメージが上書きされそうにもなるこの作品。あまりにかっ飛んだ感覚世界の描写の中に、『鬱』という言葉がどこまでも重く響く、そんな作品でした。
2023/12/05
風眠
眠り過ぎる、眠れな過ぎる、どちらにしても「過ぎる」のは大変なことだ。疲れるし、焦るし、そりゃ気分も上がったり下がったりし過ぎてしまうだろう。自分でも制御不可能なイライラを、恋人の津奈木にぶつけ続ける寧子。津奈木はかわせる人だと信頼しているから、そして「五千分の一の瞬間」を記憶してほしい女心で。「ねぇ、あたしって何でこんな生きてるだけで疲れるのかなぁ?雨降っただけで死にたくなるって、生き物としてさ、たぶんすごく間違ってるよね?」と言う寧子の言葉がつらい。読後じわじわとくる破壊力が凄まじい、愛を乞う物語。
2014/01/02
❁かな❁
本谷さん、スゴイ‼︎文章から勢いをとても感じます!久々で本谷さんの作品読みましたがすごく良かった★鬱で引きこもりの寧子。淡白な津奈木。一人称で語られていき、同棲相手の津奈木の言動に対して怒りを露わにする姿に驚きましたが鬱の時ってそうなんだろうなぁ。痛々しいけど面白いところもあり、不器用で純粋な寧子の話に夢中になり一気読み!津奈木と寧子、いいバランスだと思います*「あんたにこの光景の五千分の一秒を覚えてもらいたい」「あたしは、あたしと一生別れることができない」など印象的!前日譚『あの明け方の』も好き♡
2016/10/18
kariya
丸ごと全部分かってなんて無理だって知ってるのに、死ぬほどムカつくのは何でだろ。過眠症で鬱も年季も入ってるメンヘルの寧子は、今日も同棲相手の津奈木を罵倒しつつ、元カノやバイト先のアットホームなヤンキー一家にも苦闘する。でも最大の敵は自意識。全身総当りで勢い余って前転5回いきそうなヒロインほどの無駄パワーはなくとも、この理不尽で実現不可能な欲求はきっと誰も胸の底にある。だから寧子の暴走が笑えても多少ドン引きしても否定はできない。でも一瞬だけでも言葉が通じたら3秒くらい死んでもいい。それもホントの話。
2010/01/04
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