ぬるい毒 (新潮文庫)
ぬるい毒 (新潮文庫) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
いつの間にか本谷有希子さんの小説も7冊目に。この人は変幻自在というか、読むたびに違う小説作法で挑んでくるかのようだ。今回のこれは、自意識がどこまでも増殖していった果てに、自己崩壊もしくは自己撞着に結実したような小説。語り手である「私」(客体化すれば熊田さん)には、もどかし過ぎて共感することはできない。また、当然のことながら向伊にも。そして、読んでいる途中はひたすらに不愉快な感じが付き纏って離れない。淡々とした結末はまだしも救いであるかのような気もする。本谷有希子がこれからどこに向うのかは、大いに謎である。
2018/06/24
ゴンゾウ@新潮部
まさしく題名の通りぬるい毒に侵されながら身動きが取れなくなるような作品だった。妖艶なもの、怪しいもの、危険なものとわかっていながらそれに触れた時の快感が忘れられなくて行く感覚がある。向伊の毒牙にかかったようにみせかけて最後に痛烈なダメージを与えてすり抜けた熊田にもぬるい毒があったと言うことなのか。ふたりの緊張感のある心理戦に疲れたが読み応え充分の作品だった。
2015/04/25
りゅう☆
学生時代の知人という向伊からいきなり怪しい内容の電話がきた。不信に思いながらも向伊に会いに行く熊田。次に連絡きたのは1年後だが、徐々に2人の距離が時間をかけてゆっくり縮まる。向伊の嘘を知りつつ、手のひらで踊らされてるのはあなたの方なのよ、いつかは欺いてあげるわってな感じだけど、向伊にこれほどまで執着するって恋じゃないの?でも本谷さん曰はく恋じゃないんだそう。熊田の妄想についていけず、明らかに嘘をつき続ける向伊の勝手さに嫌悪感あるし、嘘をついてくれと願い、その嘘と付き合う熊田にも全く共感できないまま読了。
2018/02/24
hit4papa
支配される女は、支配されるていで、斜めから支配する男を観察するというめんどくさい話です。一年毎に連絡をしてくる男の奇妙なアプローチによって、愛というにはほど遠い歪んだ感情で言うがままになってしまう主人公。主人公の態度と内面の乖離のあらわし方が絶妙すぎて、思わず著者の人物像と重ね合わせてしまいます。男に対して絶対的な嘘を求める主人公の心の動きは、タイトルの”ぬるい”を意味しているのでしょうか。酷い言葉が発せられたはずのシーンはストレートに書き表されていないのですが、味があるというよりストレスがたまりました。
2018/10/10
Shoji
題名の『ぬるい毒』、いかようにも解釈できる物語でした。主人公は、向伊という男と、熊田という女。向伊が3年4年かけて熊田につきまとい、ものにする。一方、熊田は熊田で向伊に対して受け入れているのか避けているのかよく分からない。無個性なキャラクター、いや大いに個性的なキャラクター。あれどっちだろう。もしかして、ファンタジー小説で幻想を書いた物語か。そもそも恋愛小説なのか。こうして感想を書いているうちに、私までぬるい毒に犯されたようだ。でも、こんなもやっとしたお話、私は好きだ。
2018/02/27
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