その街の今は (新潮文庫)
その街の今は (新潮文庫) / 感想・レビュー
hiro
京都の大学生の一日を描いた『きょうのできごと』を読み、日常を切り取って描く柴崎さんの作品が好きになった。この作品は、大阪の中心に住みカフェでバイトするアラサーの歌ちゃんが主人公。合コンに参加したり、年下の男性と知り合った、阪神が優勝した2005年9月の歌ちゃんの生活を描かれている。昔付き合っていた男性との再会もあり、歌ちゃんの胸のざわつきも感じられたが、それで何かが変わることもなく10月を迎えるところで終わるという、柴崎さんの小説の世界観が快かった。大阪弁の会話が、好みを分けるかもしれない。
2018/11/28
里愛乍
何気なく入った本屋で何気なく手に取ってパラっと読んで。煽るような帯もなく、タイトルと表紙と作家と頁の薄さと何よりお値段が決めてとなり、久しぶりに気軽な気持ちで買った文庫本。気負いの無い出会いはそのまま内容を表したかのように、大きな起伏もなく、例えば中心人物歌ちゃんの人生が千頁くらいだとすれば、その途中の150頁くらいを抜き取って本にした感じ。彼女の日常で始まり、日常で終わる。織田作之助賞大賞受賞作なだけあって、匂い立つほどの大阪、とりわけ心斎橋御堂筋あたりを体感できる。楽しかった。
2021/03/24
kishikan
先週、本に書かれてある辺りを1日かけてブラブラ歩きまわったので、親しみを感じつつ、でもどんな街並みがあったっけと振り返りながら読み進める。自分にとっては見慣れた町でも、長く住み続けた町を除けば、一軒一軒の建物の移り変わりなど覚えてはいない。人にとって街とはあくまでもマクロな概念であって、そこに様々な人が暮らし、どんな日常があったかという意味は内包されていない。とはいっても現実には、その中でいろんな生活を送ってきた歴史の上で、「今」の街がある。・・・なんてことを、さらりと言ってのける柴崎さんの傑作小説!
2012/12/10
アマニョッキ
柴崎さんの作品はいつでも冒頭の一文がすごく魅力的だ。チャーミング。初っぱなからそれはないだろ?ってぐらいにわたしの心を掴む。横ではなく縦に拡がる時間軸が、今ここでこの街で過ごしている人たちへの想いへと繋がっていく。派手さは決してないけれど、いつまでも柴崎さんにはこういう作品を書き続けてほしい。解説の川上弘美さんとまったくおんなじ気持ち。たくさんの偶然と均衡が柴崎さんにこの小説を書かせてくれて、ほんとうによかったと思います。
2018/08/04
ぶんこ
大阪ミナミ周辺での、28歳喫茶店バイトの歌さんが合コンしながらの普通の日々。大阪ミナミに土地勘がない人には(私ですが)、どんなところで、どんな日常なのかがわかって面白い。人の多さには読んでいても疲れますが、歌さんが大阪を愛しているのが伝わる。古い写真は図書館に行けば地元コーナーのようなのがあって、たくさん見る事が出来るんだけどな、と思ったり、自分の知らないところで自分の写真が縁もゆかりもない人の手にわたる怖さも感じました。
2016/12/25
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