ウィステリアと三人の女たち (新潮文庫 か 64-4)
ウィステリアと三人の女たち (新潮文庫 か 64-4) / 感想・レビュー
masa
女たちは迷っている。しかし迷いのない筆致で描かれるそれには、強さが漲っている。そこかしこに漂う圧倒的なカースト上位感と底意地の悪さ。僕のような底辺の男は少なからず怯むのではないだろうか。女の敵はあなたよ。あなたなのよ。あなたがいけないの。あなたが女を不幸にしたの。今日こそ何か起きるのではないかと期待するあなたは狂っている。津波で原発から放射能が漏れ、未知のウイルスとワクチンに蝕まれ、国家経済は破綻している。もう何もかもが起きた後なの。終わりなの。だからデパートのシャンデリアはあなたの頭上には落ちてこない。
2022/05/07
エドワード
人の記憶にまつわる四編。標題作が傑作だ。ある女性の家の斜め向かいの古い洋館が取り壊されていく。老婦人が独りで住んでいた洋館。彼女は黒い服の女性に導かれて、ある真夜中に洋館の残された部屋へ入り、そこでかつて暮らした二人の女性一日本人のウィステリアとイギリス人教師一の夢を見る。子供たちに英語を教え、共に笑い、共に夕食を摂った。イギリス人教師が故郷へ帰らなければならなくなり、二人に永遠の別れが訪れた。古い家に染み着いた記憶。妖しくも哀しく甘いファンタジー。外国文学のような「マリーの愛の証明」も洒落ているね。
2021/06/23
サンタマリア
今の世の中から見ると何かが欠落しているもしくは何かを得ることができなかった女性達が日常を歩いている。彼女達の歪みは彼女達の責任とは言えないが、その日常は彼女達自身が原因で確実に歪んでいる。そのような歪みの中を歩く女性達の背中はワンピースのファスナーが閉まらないままの後ろ姿のようであった。
2021/07/18
おっしー
川上未映子、2作目。全4編の短編集。どれも浮世離れ感のある女性の話。記憶やら愛やら存在やら、そんな形而上学的なことに対して正しい距離を模索する。好きな作品は「シャンデリア」。その日出会ったばかりの相手に「死にぞこないの、くそばばあ」なんてとんでもない暴言を吐いた後のタクシーの号泣の場面。お金があっても幸せになれるわけではないし、ストレスを他人にぶつけることで解消するわけでもなく。むしろ自分の卑近さに嫌気が差す。強く印象に残る場面。表題作「ウィステリアと〜」も文章の巧みさが光る良作でした。
2022/08/06
メタボン
☆☆☆☆ 少女の頃、性の目覚めから同性を裸にしていろいろと試していた記憶、そしてその相手の死を知った時のつながりが印象的な「彼女と彼女の記憶について」。ふとしたことで多額の印税収入がある私は、老婆の買い物につきあい、最後は罵倒する「シャンデリア」。「マリーの愛の証明」と表題作も、同性愛をほのめかしている。いずれの中編も不思議で独特な世界観だった。
2022/05/24
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