アンテナ (新潮文庫)
アンテナ (新潮文庫) / 感想・レビュー
じゃむ
エロスとタナトス。生きるということは性に振り回されるということ。死は転換に必要であるということ。死者に対する残滓は残された者の澱となって地虫のように蝕んでいくということ。独特な死生観をまざまざと見せつけてくれる小説だった。度重なる性描写にうんざりした読者も多いことだろうが、作者が訴えたかったのは「オナニー」と「セックス」の明確な違いだ。前者では主人公は疲弊しかしない。後者において主人公はそこに自分の写し鏡を見出す。そこに自分を認識する。そう。アンテナとは受信装置なのだから。
2017/11/27
リタ
凄まじい浄化が行われたのを目の当たりにしました。SMの女王という特殊な人物をきっかけに主人公の“アンテナ”がどんどん敏感にどんどん清らかに世界を受信する。「性」は「生」であり、官能はそれを感じるための聖と俗をあわせ持った儀式。肉体的であれ精神的であれ、私たちは繋がることでこそ喪失を深く感じることができる。そして、その痛みを引き受けることで現実を生き抜くことができるのだと思います。喪うことがもたらすもの。殺すことで生かせる心。そして、喪失を失わないこと。ランディさんのメッセージが子宮に響いた気がしました。
2014/12/09
ゆきのすけ
ナオミって深い女だったなぁと感心ひとしきり。SM嬢であろうがホステスだろうが、ナオミは人の感情や欲望や抑圧された思いを貰い受けて人を助けていた。無意識の中に隠れているもの、隠しているものをその人に気付かせるって、真似出来ない才能だと思う。主人公が自分を再認識したとき、世界はどんなに苦しくて、近かった事だろう。体験してみたいな。
2010/05/02
加悦
再読。 幼い頃に消えてしまった妹を探すお話。 すごくグロテスクでスピリチュアル。 生きていくって、本当はこういうくらい重力のあることなのかも。 生々しい別れの物語でした。
2021/10/09
ceskepivo
こういう小説もあるんだと気づかされる作品。自分では無意識に隠している内心の動きがあぶりだされてしまう若干グロテスクな小説である。しかし、読み手にこのような感情を湧き起こさせる著者の構想力、表現力はさすがである。妹の存在は何であったのだろうか。
2011/02/16
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