東京駅物語 (新潮文庫)
東京駅物語 (新潮文庫) / 感想・レビュー
コジ
★★★★★ 末巻で解説されている通り、この作品は閉じた舞台で様々な人々が交差するグランドホテル形式。東京駅が中央停車場として建築が始まった明治時代から始まり昭和の終戦直後へと時が流れる中、時代の変遷と共に東京駅の歴史と男女の心の機微が時には切なく、時にはユーモラスに語られている。登場人物たちがオーバーラップしながら繰り広げられる男女の出会いと別れを綴ったドラマは非常に面白く感じた。行間に微妙な色香を感じる渋めの恋愛小説的でありながらヒューマン・ドラマも味わえる。癖は強めかもしれないがオススメ度は高い。
2016/10/21
との@恥をかいて気分すっきり。
東京生まれの私にとって東京駅は出発の場所であった。しかし大阪に住むようになってからは故郷に帰る場所になっていた。ところが老齢の両親が兄夫婦を頼り東京を離れたため、私に故郷は無くなった。物語を描くのは人間である。人々の営みの積み重ねが歴史を作っていく。東京駅を断面にして紡がれる物語はほろ苦さを感じる。
2014/01/24
アーちゃん
積読本消化。東京駅完成前の明治三十五年~昭和二十一年までを全九話のグランドホテル形式で綴った連作集。東京駅、丸の内周辺が三菱ケ原と呼ばれ、草ぼうぼうの原っぱだったという今では信じられない経緯から、中央停車場→東京駅と名を変えたその待合室で出会う人々の人間模様など興味深く読めました。何人か複数の話に出てくる人物はおりますが、できればラストは終戦直後より高度経済成長期で締め括ってもらいたかったかなと思いました。
2018/07/05
June
東京駅が草っ原の頃に始まる短編集。微妙に登場人物が重なり進む。時が流れ駅舎ができ、路線も増えて駅の周りも賑やかになっていく。そんな風景にのせて、自殺しようとしている男、男に捨てられ田舎に戻るか考えあぐねている女、結婚詐欺師に、駅ですれ違った誰かが関わりあい、テンポよく進んでいく。短編なのに人生を凝縮させたよう。複雑な心情も感じられてページを繰ってしまう。やがて戦争がはじまり人生は狂わされる。寸断された鉄道も簡単には元には戻らない。様々な人の人生が駅で交錯し、哀しみの中にも達観した何かを感じる小説でした。
2016/09/18
エドワード
今年東京駅は戦争で失われた創建時の姿に復元された。二つのドームを持つ威風堂々たる建築物だ。この作品は、東京駅を舞台に様々な人間模様を描いている。日露戦争の兵役で人生が変わった男女。短歌の世界で成功を夢見た女。詐欺師。戦時下の少国民と教師たち。戦後しばらく東京駅は戦争で家を焼かれた人々の雨露をしのぐ場所になっていたと聞く。私の東京生活も東京駅から始まった。今は故郷の京都で暮らしているが、新幹線が東京駅にすべりこむ時、18歳の自分が蘇る。駅は人生の節目だ。これからも多くの人が希望に満ちて降り立つことだろう。
2012/10/22
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