玉虫と十一の掌篇小説 (新潮文庫)
玉虫と十一の掌篇小説 (新潮文庫) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
表題通り、11の掌編小説集。それぞれ女と男の物語なのだが、物語中の人物たちにはいずれも名前が与えられていない。全く知らない、そして実社会ではけっして触れ合うこともない他者の物語なのだが、それは同時にありえたかも知れない「私」の物語のようでもある。また、読後は儚く消えてゆくようなのだが、それはまたこの掌編小説集の特徴でもあるだろう。そして、感覚的には寂寥の想いを残す。それは、混じり合うことはあっても、とうとう溶け合うこともない寂しい寂しい物語群なのである。
2018/10/08
じいじ
小池真理子の持ち味が発揮された傑作だ。冒頭の一篇目でトリコになってしまった。短篇より短い掌篇なのに起承転結があり、奥行きのある濃密な内容で長編に引けを取らない満足感で読了した。すべての感想には字数が足りない。頭の【食卓】:愛した男に去られた女の複雑な心情―寂しいでも、切ないでもない、そして孤独でもない心の内―が丁寧に見事な筆致で描かれている。【一炊の夢】もいい。儚く消えた恋に意気消沈する女と、不倫の恋に耐えられなくて去って行った女を捜し続ける老人が偶然出会う…話。小池真理子ファンなら必読の一冊であろう。
2016/05/30
ううちゃん
読んだのは文庫本ではなかったけれど。すべての短編を通じて、登場人物に名前は与えられていない。男と女がいるだけだ。だからこそ、本質が剥き出しになっているような気がする。少年の性の目覚めが生の泉に通じる「いのち滴る」が鮮烈な印象。「死に水」も老婆のツンデレにやられた。不倫を題材にしたものが多いのは辟易したが、「さびしい」はラストシーンが映画のような描写がよかった。
2020/03/05
kaoriction@感想は気まぐれに
名前を持たない「男」と「女」、あるいは「少年」に「少女」という普通名詞だけで描かれた十一の物語。短篇よりも短い掌篇小説。おそらく、タイトルからして川端康成『掌の小説』へのオマージュなのだろう。物語の男と女は皆、静かに、孤独に生きている。短く掌(たなごころ)の小説であるが故に、広がる濃密な世界。エロチックでせつなくて、さみしくて…そして、かなしい。静かな闇の中、微かに見える光。「さびしい」が秀逸。とても好きな物語だ。他に「一炊の夢」「一角獣」「玉虫」なども染みる。少し大人な、ちょっぴり贅沢な掌篇小説集。
2013/08/16
シュラフ
だまされたつもりでこの本を読んでみるといい。小池真理子って結構いいですよ・・・。"男と女の愛"というのが、小池真理子の作品のメインテーマなのであるが、その作風は耽美主義的なもの、フェチシズム的なもの、幻想的なもので彩られている。この短編集の中の「声」では、男が女を監禁している。女はひと目みるだけで男を萎えさせるような醜女なのであるが、男はその女の声に魅かれている。だから男は真っ暗闇の暗室でしか女を抱くことはない。そしていよいよ男は自分の眼をつぶそうと決意するのだが、そこには意外な結末が待っている。
2015/08/13
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