一九三四年冬-乱歩 (新潮文庫 く 20-1)
一九三四年冬-乱歩 (新潮文庫 く 20-1) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
きわめて精緻に構成された小説。タイトルにあるように、1934年冬の乱歩の4日間を綴ったもの。執筆中の『悪霊』に行き詰った乱歩は、ひそかに麻布の「張ホテル」に逃れ、そこで『梔子姫』を書き始める。本書はそんな乱歩を克明に描いていくが、その背後には常にポーの影が揺曳している。また、乱歩を通じて谷崎や横溝らの名も何度か登場するし、白秋のロマネスクで爛熟した詩も小説に彩りを付加する。久世は1934年という時代をも同時に書くという離れ業をやって見せる。そして、何よりも凄いのが『梔子姫』という乱歩の偽小説を⇒
2023/08/23
鉄之助
乱歩が「全く書けない」作家的危機の真っただ中にあった、この年の冬の4日間を克明に記録した、淫靡で不思議な小説。巻末の井上ひさし・解説がよかった。これもが一つの作品と呼べる。「小説をもって小説の意味を考えようとした”実験小説”」と見破っている。しかし、七面倒くさい理論的な部分は全くなく。ひたすら、面白かった。著者・久世光彦(くぜ・てるひこ)は、TBSで「時間ですよ」など名作を演出、退社後制作会社を創業した「映像の人」と思っていたが、古今の小説の造詣も深く、昭和9年の時代の匂いを感じさせる名作だった。
2019/04/13
ちょろこ
夢の中のような四日間、の一冊。一九三四年、冬。スランプに陥った乱歩が身を隠すために滞在したホテルでの四日間の物語。怪奇小説を書きながらも怖がり、小心者という 可愛らしい一面、ありとあらゆる''毛''の変化に悩む姿、ひしめくライバルに取り残されそうな不安感といい、もう誰もが悩むような当たり前の姿が微笑ましく、なんとも親近感のわく乱歩先生だった。作中作の妖しさはもちろん、シンクロするようなホテルでの数々の出来事。まるで夢の中のような幻想的な雰囲気も味わえた濃密な四日間。淋しさを感じつつ読了。
2019/02/20
匠
読んでいてふと思い出したのがアガサ・クリスティー失踪事件。どちらも事実として残っている失踪だが、乱歩の場合はスランプだったようで。その4日間の出来事をフィクションとして描かれている。でも登場するすべてのものが乱歩作品のそれと同じような世界が再現され、昭和初期の時代背景や空気感、インテリアや服装なんかを想像しながら読むのはとても楽しかった。この本を10代の頃読んだ時は、あまりわかっていなかった様々な心情が、今は少しわかるようになってきて、年月を経た再読は自分の成長を見極めるためにも良いことだなと思った。
2013/09/17
Bugsy Malone
乱歩先生と伴に、1934年の4日間を張ホテルで過ごしてまいりました。連載中の『悪霊』を書けずに苦悩する乱歩先生、薄くなった髪と白くなり始めたジンジロ毛にも、それはもう心を患わせておられました。先生と一緒に、時にはバスタブに浸かり、時には隣の部屋の音に耳をすませ、そんな先生を見つめてまいりました。心を癒してくれるのは悩ましい中国の美青年とマンドリンを奏でる美しい女性。現し世と夢の狭間で執筆なされた『梔子姫』は、先生の願望と絶望、それはもう素晴らしい夢。先生、さあそろそろ起きませんと。明智君が待っています。
2019/01/14
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