赤光 (新潮文庫)
赤光 (新潮文庫) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
この茂吉を代表する歌集には、明治38年から大正2年までの9年間の歌が収められている。白眉はなんといっても大正2年の作歌だろう。この年に詠まれたものは、そのことごとくが名歌であるといってよいが、とりわけ「死にたまふ母」を含む一連の連作短歌が強く心をうつ。「のど赤き玄鳥ふたつ屋梁にゐて足乳ねの母は死にたまふなり」―吉本隆明は、「写実と象徴と稀に見る均衡を獲得した」と評するが、まさに写実が象徴に達し得た成果がこれらの歌だ。また、連作によって物語を構成する方法も、人麻呂の「挽歌」を想起させつつ、まことに哀れ深い。
2014/02/10
kaizen@名古屋de朝活読書会
#斎藤茂吉 #短歌 赤光のなかに浮かびて棺ひとつ行き遥けかり野は涯ならん 狂者らはPaederastieをなせりけり夜しんしんと更けがたきかも をりをりは脳解剖書読むことありゆゑ知らに心つつましくなり #返歌 茂吉読む糸口自分の手になくて杜夫頼みだ青年茂吉 生物と医学複雑度高くて確率統計足でも逐えず 田中さん茂吉勧めて手に取るが生物医学苦手でごめん。 人が死ぬ話を聞いて再発を防止する手が見つかるのなら
2016/04/22
クプクプ
斎藤茂吉の本は初めて読みました。私は斎藤茂吉の次男、斎藤宗吉こと北杜夫の大ファンなので、読んで大いに共感しました。斎藤茂吉の短歌で、宮益坂という歌が出てきて、かつての渋谷や青山の姿を想像しました。また精神科医としての一面も、思いきりよく詠んでいます。現在では差別用語の部類ですが、時代背景を感じて楽しめました。トンボのことをアキツと詠み、コオロギの声は文章から聞こえてくるようでした。斎藤茂吉は「野菊の墓」の伊藤左千夫の弟子で、芥川龍之介にも大きな影響を与えたようです。改版されて読みやすくオススメの一冊です。
2024/01/15
だいだい(橙)
図書館で借りた。風景を描写した短歌を連作で読むと、パノラマのように風景が立ち上がってくる。素晴らしい描写力に感激。国語の教科書で読んだ「死に給ふ母」も切々と胸に迫ってくるが、精神科医である斎藤が、入院患者たちの自死を嘆くシーンを描いた連作も一見の価値あり。当時、精神疾患を持つ患者を「狂人」と呼んでおり、いまは差別用語になっているので、現代歌人からすれば引用しづらいのだろうと思うが、もちろん斎藤にはそんな心はまるでなく、ただ医師としての無力さを嘆いていることが伝わってくる。火葬場の短歌がいい。
2022/10/10
ちぇけら
訣別といふ言の葉に訣別をせむ蛇口から水滴は落つ。うれいがきわまる。鼻のおくが鋭くいたくて泣いた、生きていくことはひとが死んでいくのを看取ることだなんて知りたくなかったから。あらゆる死がぼくを通過していくのが苦しくて吐きそうで震えがとまらなくて、つかのまきみの血管をなぞる。青黒いきみのいとしい静脈。今日の雨音はなんだか2次元のようで、きみのすがたがいつもより薄い。次第にさめていく体温と別離の予感のせいで、夏なのに凍えそうだ。うつつではないような夕べに、蟋蟀はなにを伝えたがっているのだろう。
2019/07/13
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