春の嵐―ゲルトルート (新潮文庫)
春の嵐―ゲルトルート (新潮文庫) / 感想・レビュー
aika
音楽家クーンの、最初から叶わないと決めていた、そして叶うはずのない運命にあった恋が、一連の叙情詩を縫い上げます。一時の戯れから足に障害を負ったクーンを、彼の内なる音楽の素晴しさに気づき、救った友人ムオト。ムオトはクーンが愛していたゲルトムートと結ばれるが、ふたりは愛ゆえに苦悩し苛み、互いに滅し合い、その様子に心を痛ませるクーン。現実世界の責苦を、美しいオペラへと昇華させるクーンと、歌に込めるムオトのやるせなさと愁いが、切なく響きます。解説の訳者とヘッセとの田舎町での出逢いも、とても素敵でした。
2018/04/19
優希
美しくも残酷で硬質な物語がドイツらしいなと思わされます。クーンの少年時代の淡い恋が事故で失われただけでなく、身体障害者になることからして悲しい現実でした。しかし、クーンがオペラ歌手・ムウトと不思議な絆で結ばれただけでなく、永遠の女性ともいえるゲルトムートに出会えたのは音楽を愛したからかもしれません。ゲルトムートと結ばれなくても静かに様々なものを見つめる眼差しが幸福の意義を求めていると言えるでしょう。儚くて孤独の香りがしますが、春のような美しさが漂う名作ですね。
2014/10/11
キムチ
10代の頃、ヘッセは一種の思惟バイブルの様にもてはやされた…数点読んだものの頭の中は🌀たまーに「これは文学、読み物?」と考える。その為に?再読で学び。女としては青レモンから干し柿となった為か、すいっと脳内に浸透する。面白すぎて車中で読了。クーンの一人称語りで流れる展開は苛ついたり突っ込んだり…ラストに来てみたら「幸福の意義を求めて描かれた孤独者のエレジー!」執筆はWWⅡの最中。ヘッセがノーベル賞を取ったのが1946..日本人からしたら「世界を震撼させたナチ、独」そして独人ヘッセなんて俗っぽく思ってしまう
2024/09/06
えりか
春2。繊細で美しい。春の嵐の様に心をかき乱す青春期に、足の障害や失恋を体験してもクーンが立ち直れたのは、体中に流れる音楽があったからだ。心の拠り所となるものがあれば、人は毅然と生きていける。彼と対照的に落ちてしまったムオト。利己的で他者との繋がりが見い出せず、孤独を好みながらも孤独に蝕まれていく。孤独故の葛藤が嵐に巻き込まれてしまったのだ。幸せとは情熱を捧げられるものを持ち、人のために我があるのだと感じられた時にやってくるのかもしれない。それは春の嵐のあとにやってくる暖かな日差し注ぐ穏やかな日々のように。
2018/03/05
絹恵
たとえ身体を欠損したとしても、彼は何も失ってなどいませんでした。その残酷さも彼という人を形成する大切な一部なのだと判断出来たら、夜から朝になるように繰り返される明暗のなかで、自分で在ることが出来るのだと思います。あなたには中身が無い、空っぽだという他者の判断に痛める心があるのなら、私は私の幸福を紡ぎながら生きていきたい。
2015/04/27
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