知と愛 (新潮文庫)
知と愛 (新潮文庫) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
その名を体現するかのごとき、徹底した精進によって自己完結しているナルチス。一方のゴルトムントは他者との関係性の中に生きる。主な相手は女性だが、その愛情の発露のあり方は、まるでドン・ジョヴァンニのそれのようだ。言葉をかえれば、ナルチスはアガペーの世界に生き、ゴルトムントはエロスの世界に生きるのである。この葛藤はヘッセ自身のそれであっただろうが、芸術はついには修道生活とは両立しえないだろう。しかし、それでいてなおかつそれは憧憬すべき世界でもあるのだ。そして、その狭間に身を置くのがヘッセの文学ではなかったか。
2018/01/13
遥かなる想い
ヘッセの1930年作品。 西洋において、「修道院の存在」はどのくらい 人々の精神・規範に影響を与えるのだろうか.. ゴルトムントとナルチスの生き方を 通して、知と愛を描く。それにしても 修道院の呪縛から 解き放たれたゴルトムントの 女性遍歴は奔放である。この奔放さと禁欲の 対比が見事で、いかにも人間の両極性を 追求した、ヘッセの作品だった。
2016/09/03
ケイ
ゴルトムントは美しすぎたのだろう。彼を放ってはおかない女性たち。彼女たちを分け隔てなく愛した彼は本当は誰を愛したのか。彼が本当に欲したものは何だったのか。最期の時の平安を迎える前に、若さや美しさ、そして人生そのものを浪費しなければならなかったのかと思うと、虚しさを覚える。彼を受けとめるナルチスの高潔さがなければゴルトムントは救われなかった。そして、ナルチスはゴルトムントがいたから愛することを知ることができたとは言え、二人は幸せだったのだろうか。
2016/09/15
まふ
中世のある時期、マリアブロン修道院で「知」(観念、思索、知識、精神、意思力等)=父性的性格の助教師ナルチスと「愛」(感覚、美、生命、本能、大地等)=母性的性格の生徒ゴルトムントが惹かれあう。がゴルトムントは修道院を出奔して世俗の生活の中で「愛」と「性」の生活に溺れ姦通現場で捕らわれる。ナルチスに助けられ修道院のアトリエで彫像を作成するが、恋情やみがたく再び旅に出るも挫折し老残の身を悟り修道院で没する。⇒
2023/05/27
優希
相反する結びつきが印象的です。聖職者・ナルチスと修道院に入ったゴルトムント。ゴルトムントは本質的に官能の子であり、愛に生きるべき人物であったように思います。ナルチスとゴルトムントは惹かれ合いつつも正反対の生き方の道標を持っているのが印象的でした。結局「精神の道」と「感性の道」を歩む2人。その心の根底にあったのが知と愛だったのではないでしょうか。全く違うものを心に抱えながらも愛を語り合うのが圧巻です。その姿には全ての真理がつまっていると言えるでしょう。
2016/05/14
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