パルムの僧院(下) (新潮文庫)
パルムの僧院(下) (新潮文庫) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
ファブリスはもちろんだが、クレリアも、そして公爵夫人もまた、一貫して恋に身をやつし、命の炎を燃やす情熱の人。こうして見ると、この小説は、ごく普通の常識的な廷臣たち(大公もまた常識人)と、常軌を逸するばかりの熱情に駆られた3人の物語ということになろうか。最後は一気に収束してしまうのだが、それはあたかも炎の熱と光とが次々と消えていくかのようだ。したがって、読後は一転して、しみじみとした寂寥感を味わうことになる。若き日には『赤と黒』を愛したが、今はあるいは『パルムの僧院』こそがスタンダールのベストかと思う。
2016/06/02
のっち♬
本作最大の魅力はファブリスらを中心に据えた上流階級の愛憎劇。下巻では駆け引きや陰謀など政治的要素も絡んだスリリングな展開が堪能できる。策士的な叔母の心理展開をはじめ、自らの欲望にひたすら忠実な登場人物たちの常軌を逸した情熱が圧倒的だ。ファブリスのクレリアに対する恋愛描写も50代半ばという執筆年齢を感じさせない若々しさがある。二度と恋人を見ないと聖母に誓った敬虔な彼女が、暗闇で逢引きに応じる屁理屈は描写不足も相まって説得力はいまひとつ。その足早な展開には著者の恋愛至上主義な面と疲弊が現れているように感じた。
2018/04/12
優希
皆が恋に生きる運命にあるのではないかと思わされるようでした。脱獄に成功するも、愛する人への想いから自ら牢に戻るというファブリスは、何処までも恋と幸せを求めていたに違いありません。だからこそ愛する人の死と牢獄からの放免が彼を聖職者への道へと歩ませたとも言えるでしょう。恋と政治が情熱的に絡み合う、常識では考えられない世界が繰り広げられるからこそ、最後に消えゆく情熱の炎が印象に残ります。
2016/11/19
NAO
作品の中の象徴となっているナポレオン崇拝。ナポレオンに好意を寄せる人々はファブリスであり、彼らは、ナポレオンに、重苦しい秩序と圧制の解放者、勇気の具現者という姿を見ている。一方の旧体制側は、権謀と術策で政界を牛耳ろうとしている。ファブリスが囚人として幽閉された不吉な塔は、エルネスト大公の権威と圧政の象徴であり、そういった不気味な政治のもとでも揺らぐことのないファブリスの態度こそが、作者の一番伝えたい姿だったのだろう。政治、陰謀、牢獄、情熱の恋、さすがイタリアを舞台にしているだけのことはある。
2017/09/02
syaori
下巻は、捕縛されたファブリスを救うため地上で泥沼の政治劇が展開されるのに対し、それを見下ろす塔の上の牢獄で素朴で荘重な恋愛劇が展開されるのが印象的でした。恋、策謀、政争、栄華。最後は全てが遠く、澄んだパルムの空にけぶってゆくのですが、この狂おしい恋と陰謀の渦巻く小説が幸福で美しいのは、ファブリスをはじめ主要な人物たちが夢見ることを、「魂に触れる」ものを感じ、それを震わせて生きることを知っているからなのだと思います。そしてその感じやすい心の享受する幸福を、作者は信じ愛し、この物語に結晶させたのだと思います。
2020/06/22
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