赤と黒(下) (新潮文庫)
赤と黒(下) (新潮文庫) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
マチルドが夢見たのは失われた18世紀の貴族の振る舞いや生き方であり、ジュリアンの見ていたのは19世紀の夢だった。空想癖の強いこの2人の夢はとうとう交わることはない。また、強固な未来志向を持っていたはずのジュリアンは、激情に突き動かされて事が終わってからは、意外にも回想型に沈潜してゆく。今となってはジュリアンの情熱もまた、マチルドが求めてやまなかった、前世紀の失われた崇高な情念ということになりそうだ。50年後に評価を託したスタンダール畢生の大作は、180年経った今も孤高の山塊のように聳え立っている。
2014/09/03
遥かなる想い
副題が 1830年代史 となっているこの作品、 第二部はパリを舞台に ジュリヤンの野望を 満たす闘いが続く。令嬢マチルドとの 駆け引き・心理描写は 面白い。 野望を目前にして 夢潰えたジュリヤンの 潔さ…身分意識が色濃く残るフランスの 時代風景が 上手く現代に伝わる、そんな作品だった。
2018/05/04
優希
憎しみは長年の憧憬と表裏一体だったのだと思わずにはいられませんでした。職を追われたジュリヤンですが、秘書となり、マチルドとも強引に結婚し、権力と高職を手に入れたのですから。ただ、どうも情緒不安定を伺わせ、本気のようには見えませんでした。ただ、マチルドの妊娠で変わる流れが面白かったです。ジュリヤンは望みを得るための手段のみでのし上がったのかと考えさせられました。彼の本当の想いとは。ただ言えるのはマチルドが最後に全てを手にしたということかもしれません。
2017/01/14
ehirano1
ナポレオン厨は下巻でも懲りずにNTR。しかし、〇刑判決後の厨はおそらく初めての「愛」を得、そして漢になり散って逝きました。おそらく彼はほんの一時でも真の意味で幸せだったに違いないと思いましたし、むしろそのためにここまでのプロセスがあったと、そう信じたいです。聖母(=ルイーズ)の愛執と女帝(=マチルド)の愛執による「愛」を得た一青年の心情を描いた素晴らしい作品だったと思います。
2024/01/15
のっち♬
パリの侯爵の秘書になったジュリアンは令嬢との結婚と立身出世を目指すが、町長夫人の手紙により阻まれる。下巻では聖職者や貴族階級などの支配階級の腐敗をあますことなく抉り出していく。「どこを見まわしても、偽善か、せいぜいいかさまばかり」なこの堕落を冷静に観察しつつ逞しく生き抜こうとするジュリアン、その根底には王政復古時代の「黒」い闇の中でも真っ「赤」な情熱を燃やす小市民階級の青年たちに対する強い共感が感じられる。町長夫人とは対照的に高慢で気まぐれな令嬢との打算的な駆け引きや牢屋での独白も大いに引き込まれるもの。
2017/09/29
感想・レビューをもっと見る