永遠の夫 (新潮文庫)
永遠の夫 (新潮文庫) / 感想・レビュー
匠
次々に愛人を変えていた奔放な妻を亡くした男・トルソーツキーと、彼の妻を過去に寝取った男・ヴェリチャーニノフ。この二人の心理描写を中心に展開するのだが、悲哀、卑屈、嫉妬や復讐心でごった返しながら腹を探り合うせいか、特にトルソーツキーは不可解な言動が多く、また妻への愛情からじゃなく「生涯夫であること」への執着でしかないので同情もできなかった。とはいえヴェリチャーニノフにも共感はできない。そのせいで読み難い部分はあったけれども、情けなく哀れな人間をリアルに描写した物語の1つとして、きっとこれは名作なんだと思う。
2014/03/29
のっち♬
浮名を流す妻に対し、「生涯、ただただ夫であることに終始し、それ以上の何者でもない」田舎官吏の哀切が、妻の元愛人の視点で描かれる。『白痴』や『悪霊』といった前後作に比べると思想性よりも物語性に重点が置かれており、軽妙なタッチが特徴的。妻をめぐる対照的な二人の男の掛け合いなど、随所にユーモアのペーソスが生きている。次第に不可解な行動を取る永遠の夫の愚直さ、傲慢さ、卑屈さ、支離滅裂さを帯びた根強い復讐心など、人物描写の仔細さはいかにも著者らしい。終盤の意表を突いた展開もストーリーテラーとしての円熟が垣間見れる。
2018/08/17
aika
妻が数々の男たちの間を渡っていくのを、指をくわえてただ黙っていることしかできなかった「永遠の夫」トルソーツキー。その妻が亡くなった後、血の繋らない娘のリーザを虐げたり、10代の女の子に求婚したり突拍子もないことばかり始めて、妻のかつての愛人だったヴァリチャーニノフを巻き込んで復讐していく様子はどこか笑い話のようです。それでいて哀れで悲しくもあり、著者の作品によく出てくる小役人的気質が思う存分発揮されています。親の都合に翻弄されて傷ついていく、ただ哀れなリーザへ、著者が最後に救いを与えたように感じました。
2021/11/14
イプシロン
恐らく、ドストエフスキーの思う『永遠の夫』とは主のことであろう。しかし人間は神にはなれない。だから神の愛(Unconditional Love)――善人も悪人も等しく愛する無辺際の愛をもつことは不可能である。しかし、そういう理想を目指すことはできる。そうした理想を無意識に体現しているのが、トルソーツキーであろう。もう一人の主人公、ヴェリチャーニノフは彼の行為を眺めながら、愛と憎悪がコインの表裏であることに気づく、つまり神への道に目覚めるという美しい物語がこの『永遠の夫』であるだろう。その証拠としては、
2019/10/19
cockroach's garten
解釈が難しいが読みやすい作品。没落したとはいえどちらかと云えば“光”の存在であるヴェリチャーニノフと悲惨で救いようのない“陰”のトルソーツキー。面白い。だがそれを言葉で表現しろと迫られても難しい。何度か読み砕いていったら解る日が来るかもしれない。
2016/11/14
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