オリヴァー・ツイスト (新潮文庫)
オリヴァー・ツイスト (新潮文庫) / 感想・レビュー
ヴェルナーの日記
本作は”オリヴァー・ツイスト”少年の半生を描いた物語。時代は明確に示されていないが、おそらく著者・ディケンズ(1812年~1870年)の生きたイギリス(主にロンドン)が舞台。この時期、様々な要因から小氷期(14世紀半~19世紀半ばにかけて続いた寒冷期間)と呼ばれ、北半球では人々の生活に影響を与えている。農作物の不作による飢饉が頻繁に発生し、疾病による死者も増加。イギリスも多くの小作農家が破産し、放浪者となって都市ロンドンに流入した(寒冷化だけではなく、産業革命による技術革新の人員削減も影響している)。
2021/09/26
びす男
不遇に苦しむ男の子に、誰もが味方したくなる。憎しみの中に放り込まれた純粋で無力な存在が、読者の善意に響くからだ■社会風刺が随所に光る語りは一級品。悪意にとらわれた人びとは、勝手に破滅へと引きずり込まれていく。読者を焦らす場面の転換も効果的で、すごい作家だなと思い知る■「逃げるところなんだ、叩かれたり、ひどいことをされたから。ずっと遠いところで幸運を探すよ」■そう、逃げるんだよ、オリヴァー。今では逃げようとしない人があまりに多くなった。能動的に見えにくいオリヴァーだが、実際、彼の逃走から物語は始まったのだ。
2018/03/31
のっち♬
もう一杯ください—孤児のオリヴァーが凄惨な苦境にもめげずに成長していく様を通して、当時の救貧院を糾弾した作品。本書で著者は登場人物を絞る代わりに、社会の個人単位までの圧縮を試みている。その巧みな人物造形と卓越した文章力、迫真の描写力、何より強引ながらも興味を引く展開が魅力的だ。オリヴァーは純粋無垢で非個性的な弱者であるが、善という存在がいかに稀少で人を動かす力がありながら制度の下に埋もれているのか、著者はそれを当然の如く看過する社会を深く抉っている。読者との信頼関係を確立した話の締め方も抜かりない、名作。
2017/12/11
k5
何気に初めて読むのですが、思ってたのと違う話だったな。というのも、孤児として生まれ、救貧院で育ったオリヴァーのビルディングスロマンなのかと思っていたら、オリヴァーは一切成長せず、後半ほぼ登場すらしないという。。。むしろ裏社会のメンバーの活躍が後半は魅力的なので、ある種のノワールとして読めばいいのかな。
2024/03/31
aika
生まれてすぐに母親を亡くし、収容された救貧院で飢えや虐待に苦しむ時も、窃盗団のフェイギン一味の手先になってしまった時も、純粋な心を決して失わない少年オリヴァーのひたむきな姿に胸を打たれました。少年を境界に、善良な人々と悪の人々とが拮抗する壮大なストーリーの脇道にある小さな悲劇。預けられた先で虐げられ、天国にいる妹を想いながら行方の分からないオリヴァーを心配する唯一の友達・ディックと、凶悪犯サイクスの傍にいながらもオリヴァーを救おうとしたナンシーが辿った哀しい運命にもの思いが尽きることはありません。
2021/05/04
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