北回帰線 (新潮文庫)
北回帰線 (新潮文庫) / 感想・レビュー
まふ
どう読むか、を最初に突き付けられるような作品。著者のパリ放浪時代の、小説というよりも一方的な独白もしくは随想・エッセイとも、または日記かも知れない。とにかくプロットがあるようでないし、どうとも読んでくれ、と読者に突き放しているようにも思える。一貫しているのは娼婦との一方的かつリアルな関わり合いとそのあと処置である。作家としての詩的・哲学的な言葉が「乱舞」する。まさにシュール・レアリスム的世界。一般大衆的読者向けというよりも文学仲間への挨拶文のような気がした。G501/1000。
2024/05/03
ケイ
文学か猥褻か…。20歳の時は汚ない性描写を最後まで読み通せなかった。人生経験や、体験したフランスやアメリカでの生活、読メを始めてから読んだ本たちが、今回は通読を後押ししてくれた。マンハッタン育ちのミラーは、マッチョなアメリカンではなかっただろうが、パリで感じたものはアメリカにはないものだ。その懐の広さ、街の美しさ、程よい放任に心地よさを感じても、異邦人である彼は結局はそのことに気づく。それが彼に書かせたのだ。数々の文豪たちの本を読み込んだ上で、猥雑な文章の中に自然にそれらを混ぜ込む技が素晴らしい。
2015/10/26
扉のこちら側
2016年103冊め。【125/G1000】性描写が苦手なわけではないけれど、作中でも『泌尿器科的』という表現があるほどの美しさに欠ける感じのものは好みではない。これがまたしっかりしたプロットの有る話だったらまた違った印象だったかもしれないけれど。折々に挿入される哲学や文学の散文的な表現はおもしろい。他の方の感想の中に「押し流される」というものがあったが、私が一言で言うとすれば「垂れ流し」、かな。それもまた猥雑だ。
2016/02/15
NAO
金が無くても、知り合いの誰かのところに潜り込み、乏しい食料を分け合い、女を追い回す。自由で、頽廃的で、肉感的で、どんなに貧しくてもなぜか生きていけてしまう街、パリ。いつ芽が出るのか、本当に芽が出るのかどうかも分からない、自由で、不安で、けだるい日々の中、一見ただ女たちと馬鹿騒ぎで明け暮れているように見えるヘンリー・ミラーが思い巡らせる文学のこと、芸術のこと。過激な性描写から目を逸らそうとするあまり見逃してしまいそうになるが、ヘンリー・ミラーの真摯で熱い芸術論は一見の価値がある。
2016/03/17
ω
何とか読了ωこれは小説なのかという問いには「これは文学だ!」と返しましょう。 ーー性的食物の多種多様という点で、ぼくはパリに類するところを見たことがない。歯が欠けているとか、鼻がくさって落ちている、子宮が崩れているとか、ここでは男の減退した食欲をそそる香味料、刺激物とみなされる。 ーーひとびとは虱に似ている。皮膚の下へもぐりこんで身を隠してしまう。掻いて、掻いて、掻きむしって、それがぼくにあたえる効果は素晴らしい。ぼくは全世界が狂ってしまえばいい、すべての人々が体を引っ掻いて死んでしまえばいい、と願う。
2024/01/13
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